19 中国産ワイン

アイスワイン「発見」と驚き 輸入を決断 普及の可能性

2013年8月、中国のキリアンワインで行われた輸入取引に関する調印式で(手前右が私)

 「シルクロードのアイスワインはいかがですか」

 10年以上前、私は東京ビッグサイトで開かれた展示商談会を訪れた際、こんな売り込みを耳にしました。たどたどしい口調の日本語で、よく見ると中国の出展ブースでした。

 当時、中国製ギョーザ中毒事件が大きな問題になっていた影響で、日本では「中国産」の食料品は敬遠されがちでしたが、凍った果実で造る「アイスワイン」という点に興味を引かれたこともあって試飲してみました。すると、本場ドイツのアイスワインよりおいしく感じ、「何これ! どういうこと」と私は驚きました。

 出展者に聞いてみると、シルクロードの要衝だった甘粛省敦煌(とんこう)近くでは、秋の終わりごろに気温が一気に下がり、ドイツよりも1カ月早くアイスワインができるというのです。さらにドイツは、白系のワインブドウ品種であるリースリングが多いのに対し、中国の場合、メルローもシャルドネもすべて凍ってしまうので、白系だけでなく、いろいろな種類のアイスワインができるというのです。

 日本ソムリエ協会には世界各国のワインに関するデータがそろっていますが、中国ワインはありませんでした。私は、日本ではまだ取り扱われていないと考え、一気に中国ワインに関心を持ちました。

 出展していたのは甘粛省のワイナリー「キリアンワイン」でした。ここのアイスワインを輸入するのにかかる日数は、中国国内を陸路横断し、大連から船で輸送しても長野まで1週間程度。欧州はじめ、米国、豪州、チリなどのワインだと長野到着までは1週間以上かかります。外国のワイン産地の中で中国産ワインは日本に最も近いのです。しかもワインの輸送では、高温にならないように温度調整を徹底させる必要があります。キリアンワインであれば、寒い冬に運べば特別な温度調整は必要ありません。

 私は実際に、キリアンワインのワイナリーを訪れた時、新宿区の面積を超える畑の広さに驚きました。さらに、降雨量が非常に少なく、病気や虫の被害の心配がいりません。現地では地下水をくみ上げていました。

 中国はかつて木を伐採し過ぎて、土地の砂漠化が進みました。緑化対策の一環で目をつけたのがワインブドウだったのです。キリアンワインは中国の林業局が開発したワインです。

 さらに現地で知ったのは、日本の経済支援を受けてできたワイナリーだったということです。日本が援助したのに、ビジネスにしようとした日本人はいませんでした。現地の人は、「あなたは最初に来た日本人です」と、私を歓迎してくれました。

 こうして、私はキリアンワインの輸入取り扱いを始めました(現在は新型コロナウイルスの影響で休止中)。恐らく、日本ソムリエ協会の中で中国ワインに最も詳しいのは私ではないでしょうか。

 私は中国を訪問して、この国の勢いをまざまざと感じました。甘粛省は砂漠の中にあって、初めて訪れた時には何もなかった所に、翌年訪問した時には、巨大な風力発電のプロペラが約千機回っていました。「中国版新幹線」は九州から北海道までの距離をわずか1年で建設してしまいます。こうした実情を目の当たりにして、日本で中国産ワインが普及する可能性と、中国の経済的な勢いを感じずにはいられませんでした。

聞き書き・斉藤茂明


2022年9月17日号掲載