18 アンダーマイニング効果 報酬で逆にやる気なくす

ロックシンガーの矢沢永吉さんは1980年前後、長者番付の歌手部門1位に輝きました。

 貧困を経験した幼少時代の影響から、お金を手にすることを一番に考えていたと思われていました。しかし、当時、矢沢さんはインタビューで、金もうけはアーティストとして意に沿わない仕事を避ける基盤をつくる手段だったと述べています。矢沢さんは70歳を過ぎた今でも現役で活躍しています。お金が歌手活動の真の動機(やる気)ではなかったと言えるでしょう。

 お金と「やる気」の関係については、行動経済学でも研究されています。ある実験で「ストップウオッチをできるだけ5秒近くで止める」という課題を参加者に与えました。参加者は、成績に応じた金銭報酬を提示したグループAと、報酬を提示しないグループBに事前に分けられ、2回行いました。

 1回目の実験では両グループとも、意欲や達成感に関係する脳の前頭葉や大脳基底核が働いていることが脳波で分かりました。2回目は、成果報酬がなくなることを告げると、グループAは脳活動の高まりが消えて「やる気」が低下し、一方、報酬が提示されないグループBは、1回目と同様の脳活動を示しました。さらに休憩時間に、グループBは86%が積極的に課題を楽しみましたが、グループAでは課題に取り組んだのは36%にとどまりました。

 金銭的報酬を得るために課題をこなしたグループAでは、自発的な「やる気」が低下してしまったことが分かります。

 課題の成績によって得られる報酬は、通常、人間のやる気を高めると信じられています。しかし、一方で報酬を与えることでやる気を低下させることもできるのです。このような現象を、「土台を壊す」「弱体化させる」という意味の「アンダーマイニング効果」と呼びます。

 矢沢永吉さんの場合、一番に考えていたのは、報酬の「有無」「多少」というよりは、自らが目指す音楽を作ることであり、お金は目的でなく手段だったに違いありません。

(マーケティングコンサルタント)


(2020年11月7日号掲載)