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17 エコロジーデザイナーとして

  • 5月17日
  • 読了時間: 3分

更新日:5月22日

自然との共存を目指して ファッションの世界から

横に3倍伸び縮みする絹織物を開発、体にフィットした着心地を楽しめる作品群を発表。「OKA MASAKO」ブランドがスタート=2000年5月
横に3倍伸び縮みする絹織物を開発、体にフィットした着心地を楽しめる作品群を発表。「OKA MASAKO」ブランドがスタート=2000年5月

 1年半余り、無我夢中で準備してきた長野冬季五輪文化プログラム「Fashion(フ ァ ッ ショ ン)for(フ ォ ー)  The(ジ)  Earth(ア ー ス)」を成功裏に終え、心の中に残ったのは、「環境と共生するファッション」をこれからもこの長野から発信していきたいという思いでした。そして、このショーで160点を制作した経験や技術、また機屋さんとのつながりを生かし、エコロジーデザイナーとしての第一歩を踏み出そうと決めたのです。

 その背景には地球温暖化やエネルギー問題など、自然環境の深刻化がありました。私はほんの少しでもファッションの世界から、これからの未来に役立ちたいと考えたのです。ちなみに現在、世界人口80億余人の衣類を支えている素材の半数(51%)が石油由来のポリエステルです。

長野五輪のショー用に開発したテキスタイルで日常着られる作品を新たに制作。初の個展「自然を衣る」で発表=1999年1月
長野五輪のショー用に開発したテキスタイルで日常着られる作品を新たに制作。初の個展「自然を衣る」で発表=1999年1月

 石油だけに頼らず、二酸化炭素(CO2)の削減に役立つ植物由来の繊維として今後期待されるポリ乳酸の可能性をもっと発信できないか…。あるいは、人間の素肌に最も近い天然繊維でありながら、世界で0・2%しか使用されていないシルクをもっと身近なものにできれば…。そんな二つの繊維を中心に肌にも環境にも優しいファッションを、「自然を身にまとう」をコンセプトに日常着られる新たな作品へ制作し直しました。

 1999年1月、東京銀座のアートスペースで初の個展「自然を衣(い)る」を開き、約40点の新作を発表しました。夕映えの紅葉や針葉樹の向こうに広がる空、美しい自然をイメージした色とデザインを基調に、軽くて、伸び縮みしやすいといった機能面にも配慮したブラウス、ジャケット、スカートなどを展示紹介するとともに販売もさせていただきました。

 この作品展をファッション情報誌「gap(ギャップ)」が見開きで紹介してくれました。そこには「環境素材というお題目を忘れさせるほどのナチュラルな風合いと、シンプルなデザインに彼女のファッションセンスを感じ、軽やかに〝今〟の服に仕上がっていることにも共感をおぼえた」と書かれており、とてもうれしかったことを覚えています。

 そして、2000年5月にはシルクに焦点を当てた作品展「THINK SILK こころのころも」展を東京渋谷の代官山ヒルサイドテラスで開き、日常着としての「シルク」や、エコロジーなポリ乳酸素材で制作した作品で全館を埋めました。

 全てオリジナルの布をゼロから開発することにこだわったこの個展では、「自然のエネルギーを身にまとう」をコンセプトに、信州の山々で堂々と伸びる木肌の美しさをイメージし、横に3倍ストレッチする絹織物などを制作しました。着心地を重視しながらもジャポニズム的なアート性の強い作品を見てくださったバイヤーやジャーナリストらから「これは海外でウケるよ」とうれしい評価もいただきました。

 幼い時から「デザイナーになること」を夢見ながらも教師となり、心のどこかで消化できずにきた私…。自然との共存を目指した「エコロジーデザイナー になる」と方向性を定めることができた背景には、美しい自然の宝庫である「長野」で育ったことが大きかったと思います。オリンピックのショーや個展の開催、そのためのテキスタイル開発など、出費は続き、現実の厳しさは続きましたが、それを超える「やりがい」がエネルギーとなりました。

(聞き書き・中村英美)

2025年5月17日号掲載

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