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16 長野五輪文化プログラム

  • 5月10日
  • 読了時間: 3分

屋外の会場でショー開催 世界に向けてメッセージ

信州の豊かな自然の美しさをテーマにした「Fashion for The Earth」。凍てつく寒さの中で光を浴びた衣装は美しさを増してきれいに見えた=1998年2月10日
信州の豊かな自然の美しさをテーマにした「Fashion for The Earth」。凍てつく寒さの中で光を浴びた衣装は美しさを増してきれいに見えた=1998年2月10日

 1998年2月7日、世界中が注目する長野冬季五輪が開幕しました。連日選手たちの活躍が伝えられる中、2月10日は私にとって一生忘れることのできない一日となりました。1年半余りをかけて準備してきた長野冬季五輪文化プログラム「Fashion for The Earth」開催の日を迎えたのです。


 この日、私は朝からずっと天候のことを気にしていました。実はテロ対策など安全面と、天候に左右されない利点などから、屋内会場での開催を何度も勧められていました。しかし「自然との共生」をテーマとする以上、空気の冷たさや風を五感で感じられる会場でショーをするべきだと考え、私はリスクを承知の上で、屋外競技の表彰式会場となっていたセントラルスクゥエアでの実施にこだわりました。そのため、当日を迎えてなお「開催できる」確証を持てないままでいたのです。


 そんな中、東京から新幹線で長野入りしたプロのモデル30人と、今まで何度もウオーキング練習を重ねてきた市民モデル40人が初顔合わせをして会場を確認。打ち合わせの後、ヘアメーク、最終のフィッティングを済ませて、リハーサルの時を待ちました。折からの雪は積もり始め、夕方にはステージの雪かきをしなければならないほどに。19時からの表彰式の1時間ほど前になってようやく、30分足らずでしたがリハーサルが許されたのです。


 総合プロデューサーの私は、与えられたわずかな時間でモデルの順番や、演出、音楽、照明に至るまで全体の流れを指示し、チェックをしなければなりませんでした。


 その日はスピードスケートの清水選手が金メダルを取った日。表彰式が始まる頃には会場は選手の入場を待つ約2000人余りが歩行者天国の路上にあふれ、いつしか歓声や拍手に包まれていきました。


 20時。気温零下3度。いよいよ文化プログラム「ファッション・フォー・ジ・アース」が幕を上げます。私は、四季折々信州の豊かな自然の美しさをデザインソースにステージを「水」「風」「樹」「花」「大地」「四季」の六つのテーマで構成。「水」では薄く透明感のあるポリ乳酸繊維やシルクをメインに。「風」では軽く、宙を舞う麻を素材に、そして「大地」では主にウールを用いるなど、テーマに沿って約160点の衣装を披露。それらをまとったモデルたちが次々とランウエーを歩く姿は本当にきれいで、凍てつく寒さとは裏腹に、この信州の澄んだ冷たい空気の中で光を浴び、より一層美しく見えました。


 そして終盤。このショーは表彰式とともに世界に流れると伝えられていた私は、その言葉を思い出しながらショーのラストに世界に伝えるべく英語でスピーチしました。「21世紀、自然と共生する社会を築くためにも私たち一人一人ができることを…。環境循環型社会へのメッセージをこの長野から発信します」と。会場を埋めた観客から割れんばかりの大きな拍手をいただきました。


 その瞬間、「ああ終わったんだ」という安堵とともに、「すごい瞬間を味わわせてもらった」という感謝の気持ちがあふれ出てきたことが今もよみがえります。到底一人では成し遂げられる作業ではありませんでした。スタッフたちへの感謝はもちろん、私の思いをなんとか実現させようとさまざまなかたちで応援してくださった人たちあってのショーの成功でした。


 会場では80歳近い母が寒空の下、観衆の中で背伸びをしながら40分間のショーを最後まで見届けてくれました。感謝の思いと同時に、私から母へ良い親孝行ができたのではないかと思っています。

(聞き書き・中村英美)


2025年5月10日号掲載

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