緑豊かな信州の風景描き 約8年間 計138回続く
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2002年10月から、信濃毎日新聞夕刊で私の連載「風に吹かれて」がスタートしました。見開き紙面の中央に、私の絵と小文を載せ、絵は、緑豊かな信州の自然の中で、小人たちが自由に遊んでいるメルヘンチックな絵柄にしました。
連載は約8年、138回も続きました。北信地方から南信地方まで幅広く各地の風景を描くことを心がけました。当時、私は東京都に住んでおり、信州全体の地理に詳しくありませんでしたが、多くの人の協力があって、信州のいろいろな景色を写真に収めることができました。例えば、北信地方は義兄に案内してもらい、中信地方の取材では、私の絵を気に入ってくれた奥原暁雄さんが協力を買って出てくれ、松本市内や上高地、乗鞍、足を延ばして川上村を案内してもらったこともあります。
2002年に開館した松本市美術館の市民ギャラリーで1週間展覧会を開いた時は、奥原さんの家に1週間泊まり、車で各地を案内してもらいました。
伊那方面は、公務員の唐沢直樹さん、白鳥孝さん(現伊那市長)が協力してくれました。伊那谷の山や風景は穏やかでおおらかに感じられますが、それが伊那谷に住む人柄にも表れているような気がしました。実際、伊那谷の人は優しい人が多く、よそ者を大切にする傾向があるという話も聞きます。木曽谷は元小学校校長の水野義朗さんが案内してくれました。写真が好きな水野さんは良いスポットをたくさん知っていて楽しかったです。
長期連載を通して、何より長野県の景色は私を引きつけました。長野県は地域によって変化に富んだ景色が見られます。季節が変わると景色もがらっと変わります。私がずっと長野県に住んでいたら、この景色の素晴らしさに気づかなかったかもしれません。小さい頃木曽から長野市へ引っ越して木曽の良さが分かり、大人になって東京都に暮らしてみて長野県の良さが分かるようになりました。
新聞連載に力を入れる一方で同じ年、参加者を募り、千曲川でカヌーツアーを開催しました。カヌーイストの野田知佑さんが長野県へ来る機会に合わせて企画し、飯山市の「なべくら高原・森の家」に協力してもらいました。
長野市の屋島橋をスタートし、飯山市の古牧橋付近までカヌーで行き、テント泊し、翌日、同市の湯滝温泉まで向かうコースでした。ツアーには野田さんが同行しました。野田さんのもとに集まる人は、当時の社会や生活の在り方に何らかの疑問や危機感を持ち、便利な暮らしから離れて、自然に返ってカヌーを楽しもうと参加した人が多い印象でした。
このカヌーツアーは好評で、翌年以降も続けられました。新型コロナウイルスの影響で中止を余儀なくされましたが、2021年まで続きました。野田さんが亡くなった翌年の2023年にはメモリアルツアー(追悼企画)も開催されました。その際、笹舟にメッセージを付けて散骨したのがとても印象的でした。野田さんが「こんなふうに散骨してもらうのも良いな」と言ってくれているような気がしました。
聞き書き・広石健悟
2024年11月2日号掲載