16 「一真」を名乗る

大会出場用につけた名前 美容師としての情熱刻む

さまざまな髪形に挑戦していた頃、アフロヘアの私

 突然ですが、私の本名は「一彦」といいます。「一真」は、勤めていた東京・大井町の美容室に隠れて美容コンクール(大会)に出場する際、「本名だと店にばれてしまう」とつけた大会用の名前でした。

 当時、杉良太郎が演じる「一心太助」というテレビドラマが人気だったことから、「一心」の「心」を「真」に変えてつくりました。

 この頃の私が大会出場と同じくらい熱意を傾けていたのは、お客さまからの指名を取ることでした。

 美容室にとって、お客さまからの指名は絶対です。美容師の資格取得後は、シャンプーのテストに続いてカット、ブロー、カラー、パーマなどメニューごとに先輩や店長のテストがあり、それに合格しなければお客さまを担当することはできません。しかし、お客さまが指名してくれれば合格前でも一人前の美容師として施術することができました。

 指名が多ければ多いほど経験が積めますし、給料も上がります。大会の出場料に困っていた私には、技術の向上だけでなく給料アップも切実なことでした。

 お客さまにシャンプーをしながら「次はぜひ僕にカットを担当させてください」と自分を売り込みました。「俺のお客を横取りするなよ」と怒る先輩もいましたが、「仕方ないなぁ」と許してくれる先輩もいました。

 せっかく指名をいただけても、うまくいくときばかりではありません。ある時、錦織光弘先生のお客さまが「杉山くんはシャンプーがうまいからカットもやってちょうだい」と指名してくれました。張り切ってカットしましたが、私への指名はその一回きりでした。別のお客さまからカラーの指名をもらったときは、お客さまが望む色の出し方が分からず先輩に助けてもらったこともあります。

 「指名をもらえればいいというものではない。いつ指名されても完璧な仕事ができるように準備しておかなければ」。自分から指名を求めることで、常に緊張感を持って練習に励むことができました。

 美容師になって2年目を迎えた頃から、私の美容師人生は大きく動き始めます。

 ある日、先生から「大会に入賞した杉山一真ってお前のこと?」と聞かれました。黙って出場したことを謝ると、「まぁがんばれ」と拍子抜けするほどあっさり認めてくれました。

 さらに、先生がほかの美容室経営者と共同で原宿に支店を出すことになり、私も原宿に移ることになりました。

 「これはチャンスだ」と期待で胸が高鳴りました。先生や先輩の顧客が多い大井町の店とは違い、新しい店なら新規のお客さまが自分の顧客になる可能性が大きいと思ったからです。

 「杉山」「杉山くん」と呼ばれていた私は、大会で名前が売れ始めていたこともあり、原宿では最初から「一真」を名乗りました。

 原宿は「美容師 杉山一真」が本格的に始動する場所となったのです。以来「一真」という名には美容師としての私の歩みと熱い思いが刻まれていきました。

聞き書き・村沢由佳


2022年1月1日号掲載