13 アシスタント時代

「向いていないかも」と不安 お客さまの応援が励みに

お客さまの髪を整える私(左)

 1年のインターン期間を終えて国家試験に合格した私は、ようやく美容師としてスタート地点に立つことができました。アシスタントへと立場が変わり後輩もできましたが、急に仕事の内容が変わるわけではありません。相変わらず掃除や洗濯など雑用も多く、「ヘルプ」に入っては怒られる日が続きました。

 一度ヘルプで失敗すると、数日間はヘルプに入らせてもらえません。「早く美容師として成功したい」という気持ちが強かった私は、その思いが先輩への生意気な態度に出てしまうこともありました。一部の先輩からいじめのようなこともあり、苦しい思いもたくさん味わいました。

 気持ちが落ち込むと、「自分は美容師に向いていないんじゃないか」と不安に襲われました。そんなときは、「お前ならできる」「絶対に負けるな」という言葉を紙に書き、起床してから部屋にいる間はずっと目に入るように部屋の天井や壁に張りつけました。家族の反対を押し切って美容の道に進んだ私には、逃げる場所も帰る家もありません。「ここで頑張るしかない。敵は他人ではなく自分自身だ」と、負けず嫌いの気持ちを奮い立たせました。

 もう一つ、当時の私を支えてくれたのがお客さまの存在でした。

 「レディスサロン錦織」は、受け付け専門の「レセプショニスト」がいたり、店内にピアノを置くなど高級感を打ち出した店でした。お客さまもまた高級志向の、多くが上品な年配の女性でした。

 美容師の資格を取得するとお客さまのシャンプーを担当できるようになるので、私も接客の機会がぐんと増えました。お客さまをシャンプーするときは、インターン時代の特訓を思い出し、考えながら心を込めて洗髪しました。すると、「シャンプーは杉山君にやってもらいたい」と、私を指名してくれる人が増えてきたのです。

 お客さまからすると私は「息子か孫の世代」、私は曽祖母に育てられた「ばあちゃん子」。だからでしょうか、お客さまとの会話は弾みました。美容師を目指したいきさつや将来の夢を話すと、「杉山君は一生懸命だね」「応援しているよ」と言ってくれました。

 さらに、「本をたくさん読みなさい」「美容の勉強だけではなく、文化・芸術の教養もつけなくては」「本物、一流のものを見て目を養いなさい」と、高い視野からアドバイスをくれる人もいました。

 周りに親身に励ましてくれる人などいなかった私にとって、そうした一言一言は涙が出るほどうれしく、心にしみました。

 「先輩にぼろくそ言われても、お客さまが評価してくれるならそれが答えだ」と確信しました。「お客さまが満足する技術とサービスを提供できる美容師になる」「そのためには、ただただ努力するだけだ」

 あらためてそんな決意を固めた美容師1年目の秋、私に大きなチャンスがめぐってきました。

 聞き書き・村沢由佳


2021年12月4日号掲載