耕作放棄地でチャレンジ
稲作の講習受け交代制で水管理 羽釜で米を炊き感謝祭と収穫祭
稲作をやめた農家から南堀の田んぼ50アールを借りた13家族でつくるグループ「米米くらぶ」が11月4日、初めての米の収穫を終えたばかりの田んぼで感謝祭と収穫祭を開いた。幼児から70代まで約40人が参加し、収穫した米を羽釜で炊き、持ち寄ったおかずを囲んでパーティーを楽しんだ。
田んぼは、絹川千代さん(76)と夫の晴彦さん(77)が2人で米作りをしてきた。しかし、体力的に限界を感じて、後継者を探したものの、担い手が見つからなかったという。
千代さんは、生家の古民家をコミュニティーカフェ「みんなみ」の活動場所として提供している。昨年10月、稲作に関心を持っていた高槻幸子さん(48)=北尾張部=ら「みんなみ」の参加者を田んぼに案内した。空が大きく開けて東西に山並みがあり、眼前に田んぼの広がる風景を前に、高槻さんらは「私たちが今やらないと500年前の人たちも見ていたこの景色がなくなってしまう」と、その場で稲作に挑戦することを決めたという。
高槻さんは息子の隼人さん(14)と昨年1月横浜市から移住。小学3年生から学校に行かなくなり、「やりたいことが見つからず、打ち込めるものを探していた」という隼人さん。彼の好きな所に住もうと、仕事がある夫を横浜に残し、2人で富士山の近くや沖縄などに点々と移り住む中で長野にやって来た。
高槻さんは長野に縁がなく友人もいなかったが、「稲作は収穫まで時間がかかりリスクが高く一人ではできない。人を集めてみんなでやろう」と、みんなみなどで出会った人たちを誘い米米くらぶを立ち上げた。
「本当にやるのかな」と当初は半信半疑だったという晴彦さんは、稲作の知識のないメンバーたちのために、今年2月から稲作の講習を開始し、1シーズンの流れや機械の使い方などを一から教えていった。
機械を乗りこなす人、黙々と手作業に熱中する人、それぞれが空き時間を使って自分のできる作業をし、夏場の毎日の水管理は交代制で乗り切った。あぜに寝転がったり、瞑想(めいそう)したり、夜中に月を見に来たりと、メンバーたちは思い思いに田んぼでの時間を過ごした。
「作業中にそよぐ風の心地よさや、私にとっては当たり前のことに感動してくれるのがうれしい」と千代さん。晴彦さんは「採算は取れなくても、楽しんで仲間同士で米作りをするのは、耕作放棄地のこれからの使い方の一つかもしれない。われわれの世代が教えられるうちに、こういう取り組みがあちこちに広がっていくといい」と期待を込めた。
記事・写真 松井明子
米米くらぶは、共に米作りをする仲間を常時募集している。
(問)高槻☎️090・2161・7724
2024年11月16日号フロント