12 仏に夫婦で旅行

今後の事業のヒント探し 景色・暮らし・食生活に感銘

ボルドーワインの産地、サンテミリオンの醸造所(シャトー)の地下蔵で。石を削って建造されていた

 「斑尾高原農場」というブランド名は、農場と工場があり、商品は自社工場で作っていると思われがちで、「農場や工場を見に行きたい」と言われることが増えたものの、実体はなかったので悩みました。お客さまの期待に応えられていないのではないかと後ろめたい気持ちにもなりました。

 そんなある時、ジャム製造を委託していた食品工場で、品質上お客さまに約束しているものと違う原料が使われていたことが分かり、厳重に注意しました。しっかりチェックしていたはずでしたが、自分たちで管理できる自社工場を持っていないからこういうことが起きるのだと痛感しました。それからは、自社工場を造らなければーとますます真剣に考えるようになりました。

 今後の事業のあり方へのヒントを探していた時、北海道にある男子修道院「灯台の聖母トラピスト修道院」(北斗市)と女子修道院「天使の聖母トラピスチヌ修道院」(函館市)を知り、一人で行ってみることにしました。修道士、修道女が作る、お土産のバター飴やミルククッキーなどの菓子が有名でした。

 日本の一般的な食品工場とは違って、広い敷地に農場、修道院などがあり、そこで食品加工も行われています。牧場があり、その奥に修道院があるたたずまいがすごく美しく、衝撃を受けました。修道院の服を着た修道士に、静かな環境の修道院を案内してもらいました。静かな雰囲気の中、修道士が歩いている風景はまるで別世界で心が洗われる思いでした。

 さらなるヒントを求めていろいろ調べていくうちに、フランスにも信州と同じような気候でリンゴの産地があることを知りました。フランス北西部のノルマンディーです。

 ペンションが忙しくお金に余裕もなくて新婚旅行に行かないまま結婚から既に8年たっていましたが、新婚旅行の代わりにと、ノルマンディーと、同じフランス国内のブドウの産地ブルゴーニュとボルドーに2人で行きました。約2週間の旅で、子どもたちは東京と横浜の実家で見てもらいました。

 現地では、私がレンタカーを運転し、地図を頼りに、まゆみさんの案内で回りました。貴族の館を改造したという中世の雰囲気のある宿に泊まり、のんびりとしたドライブの旅でした。

 ノルマンディーのリンゴ畑の風景。放牧されてたたずんでいる牛の姿。畑の中には、リンゴ果汁を発酵させて造るシードルの醸造所や、シードルを蒸留して造るカルバドス(ブランデー)の蒸留所があり、試飲のできる建物もありました。

 目に入る景色の全てに感動しました。工場団地の中の食品工場と違い、リンゴ畑の中に加工所があり、お客さまをおもてなしする直売店で説明をじっくり聞いてカルバドスを理解することができました。

 村の中には必ず教会があって日曜日になると、普段は忙しい農家の奥さまたちが、きれいに身なりを整えて礼拝に来ました。村々には必ず1軒くらいは地元食材を使ったレストランがありました。そういう暮らしのあり方、豊かな食生活に感銘を受けました。ブルゴーニュとボルドーでは、世界中に輸出されている有名ワインの生産者がいました。農家が生産から加工までを担い、田舎で誇りをもって生きていました。

 こんな地方の村で世界的に有名なお酒が造られ、今でいう6次産業化のモデルがあることに感動しました。醸造所や蒸留所は建物の規模が小さく、「これなら私たちにもできるかもしれない」と思えました。

聞き書き・松井明子


2021年5月1日号掲載