11 インターン時代

シャンプーの特訓厳しく 5カ月目に店長から「合格」

インターン時代の私(左から2人目)と職場の仲間たち

 2000年ごろ、テレビドラマなどの影響で「カリスマ美容師」という言葉が流行し、美容師は「かっこいい職業」というイメージが広がりました。私が働き始めた1970年代当時の美容界は—というと、昔ながらの徒弟制度が色濃く残る職人の世界でした。

 美容学校を卒業して、住み込みのインターンとして働いたのは、品川区大井町にあった「レディスサロン錦織」です。11階建てマンションの1階に80坪の美容室、最上階に経営者で私の師でもある錦織光弘先生の自宅と社員の部屋がありました。美容師は約30人、インターンは私を含め12人もいました。

 美容師資格がないインターンは、先生の自宅と店内の掃除、洗濯、全員分の料理の支度など雑用が主な仕事で、その合間に見習いとして店で美容の技術を学びました。

 インターン時代、私がぶち当たった最初の壁は「シャンプー」のレッスンでした。先輩や店長の髪の毛を洗うのですが、合格がもらえるまでは、「下手だ」「不器用だ」と怒られてばかり。特に店長は厳しく「気持ち良くない」「かゆい。最初からやり直し」と駄目出しの連発で、2時間近く腰をかがめてシャンプーする毎日でした。腕と指だけではなく全身を使って頭の髪の毛を洗い続けるのは根性がいる仕事です。部活動での「しごき」を思い出しました。泣き言を抑え、腕の動かし方と指の力加減、お湯の温度や当て方を工夫しながら一心にシャンプーを続けました。「やってられない」とインターンの半分が辞めていきました。

 店長からの「合格」が出たのは突然のことでした。始めてから5カ月目に「よく耐えたね。シャンプーはあなたが一番うまい」と言ってくれたのです。

 当時は「地味な作業」としか思えませんでしたが、実はシャンプーの腕を磨くことは美容師にとって大切な鍛錬なのです。

 人の頭部は百人百通り。人によって頭の骨格や髪の毛の質、生え方の癖が違うのは当然ですが、同じ人でも頭の骨格がまったく左右対称の人はいませんし、毛量や生え方も場所によって違います。シャンプーで鍛えた指であれば、髪や頭に触れるだけで目を閉じていても骨格や髪質、毛量が分かるようになります。

 手の5本の指を常に均等に動かしながら丸い頭を洗い続けることで手と指がしなやかになり、特に小指と親指の感覚が敏感になります。

 骨格や髪質の違いを踏まえた上で、左右対称に見えるようにカットやパーマを施すことができて初めて、素晴らしいヘアスタイルのデザインが出来上がります。ここが習得できていなければ、どんなにうわべの技術を積んでも美しい仕上がりはつくれません。

 さらに「心地よい力加減か」「洗い足りないところはないか」など、常に相手(お客さま)の気持ちを先回りして考えて動くための訓練にもなります。

 店長からの厳しいレッスンは、美容師として本当にやる気があるのかどうかを見極める関門だったようにも思います。

 たかがシャンプー、されどシャンプー。レッスンは、出口がないようにも思えた「シャンプー地獄」でしたが、そこには深い学びがありました。

 聞き書き 村沢由佳


2021年11月20日号掲載