あなた自身が教育者ではないとしても、何かを教える機会があるのでは?
例えば、わが子へのしつけ、地域の若者や子どもへの指導などです。そうした機会に、効果を高めるには、相手を褒めるのがいいのか、厳しく指導するのがいいのか悩む人もいるでしょう。
行動経済学者のダニエル・カーネマン教授は著書「ファスト&スロー」の中で、効果的に教えるために「褒めるべきか、叱るべきか」に関する体験を記しています。
軍の教官に向けて、飛行訓練の効果を高める心理学の講義をした際のことです。教官の一人が教授に、「叱ることで次の機会に訓練生は上達し、褒めた次の機会には下手になることが多かった」と話します。叱る方が効果的だと主張するこの教官に対して、教授は「出来が悪かった後は良くなるし、良かった後は悪くなるものであり、褒めるか叱るかとは関係ない」と答えました。
これを裏付けるのが「平均への回帰」という現象です。これは、何かが起きる確率において、最初は偏りがあったとしても徐々に平均値に近づくというものです。飛行訓練の出来具合を長期的に見れば、良い出来の後には悪くなることが多く、出来が悪かった後は良くなります。
しかし、この教官は、(良かった後で)褒めるから出来が悪くなり、(悪かった時に)叱るから良い出来になると思い込んだのです。飛行訓練の指導法と結果の間に因果関係があると勘違いしたわけです。このような不合理な判断は、注意を払えば避けられます。
上司に厳しく指導された人が上司の立場になって、ゆとり世代の部下を厳しく叱る指導を続けたところ、部下は会社を辞めてしまったといった話があります。自分が受けた教育方法を、そのまま行うのが良いとは限りません。
「褒めれば大丈夫」「叱らなければダメ」といった自分の固定観念に縛られないよう注意しましょう。教える相手のタイプによって効果的な対応を選ぶべきでしょう。
(2020年8月8日掲載)
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