1 ワインと共に

ビジネスチャンス生まれ「地域おこし」の仕事へ発展

ワインセラーでワインボトルを手にする私

 私は、長野市平林にある酒の卸・流通業の「高野総本店」社長の高野豊です。お酒好きの人なら「マスターソムリエの高野豊」と自己紹介した方がおなじみかもしれません。

 大手スーパー、イオンのお酒売り場で、私の顔写真入りのポップ(宣伝用メッセージ)と共に、ワインを中心に独自にセレクトした商品が並ぶ特設コーナーがあるのをご存じですか。イオンのアドバイザーである私は、北海道から九州まで全国の店舗を回ってワインの試飲イベントやワインセミナーなどを開いているほか、各地の特産品を使ったオリジナル商品の企画・開発にも携わっています。

 ほかにマスターソムリエやコンサルタントとして、一流レストランでのサービス、地方都市でのワインサークルの開催、自治体やスーパー、レストランの新商品の企画・開発、農園の視察などでも全国各地を駆け回る忙しい日々を送っています。高野総本店に出社するのは週1、2日ほどでしょうか。

 私が7代目社長を務める高野総本店は江戸時代に小さな造り酒屋として創業した老舗です。明治初期、曽祖父が造り酒屋から卸・流通業に業態を変えました。ワインを手掛けるようになったのは私が社長に就く前の1984年ごろです。

 当時、日本におけるワインの消費量は酒類の中でわずか2%ほどでした。私がワインに興味を持つようになったのは、一流ホテルでのレストランでサービスの人から料理とともにワインについての説明を聞くひとときにとても心地よさを感じたからでした。

 「今後、ワインは日本酒やビールと肩を並べるくらい伸びる」と私は考えました。この30年間を見れば、酒類全体の消費が伸び悩む中、ワインの消費量は約3倍に増えており、私の予想通りになったわけです。

 長野県産ワインの品質は目を見張るほど上がっています。この品質向上に貢献したものの一つに、2002年に全国に先駆けて実施された「長野県原産地呼称管理制度(NAC)」が挙げられます。日本ソムリエ協会上信越支部長だった私は制度立ち上げに関わり、旧知の仲だったスターソムリエの田崎真也さんに直接電話をかけて委員長就任を依頼しました。

 高山村では当時の村長の「村を日本一のワインブドウの産地にしたい」との夢を聞き、村にいたワインブドウ栽培家の力を借り、農家の皆さんと高山村を「ワインブドウの聖地」と呼ばれるまでにしました。県外からの引き合いも少なくありません。当時最年少だった和歌山県有田市長の有田ミカン復活への熱意に賛同して協力し、NACを応用した制度を導入した結果、認定の有田ミカンを栽培する農家の年収はほぼ倍増しました。

 長野県産ワインはブランド化に成功し、長野県は全国の就農希望者の注目を集めることになります。現在、長野県のワインブドウの生産量は山梨県を抜いて全国1位です。

 ワインは、ビジネスチャンスをもたらしてくれました。そして何より、たくさんの個性的で魅力的な人たちと引き合わせ、特産品を使った商品開発による「地域おこし」というやりがいのある仕事へと発展するきっかけを与えてくれたのがワインです。

 聞き書き・斉藤茂明


2022年4月30日号掲載