ダイエットは現代人の関心事であり、いろいろなダイエット本があふれかえっています。
しかし、よく耳にするのは、ジム通いやサプリ摂取、食事の量や時間のコントロールなど、さまざまなダイエット法にチャレンジしたものの、三日坊主やリバウンドで終わったという話です。
人間心理をうまく突いたダイエット法を紹介しましょう。「レコーディングダイエット」と言われるもので、日々、食べた物の種類や内容を記録する方法です。摂取した栄養やカロリーを自覚するのが狙いであり、難しく考えずに記録し続けるのがコツだそうです。
この方法の効果は、人間心理における「機会費用」という考え方により理解できます。機会費用とは、ある行動を選択した結果、得ることができなかった価値のことです。分かりやすく言い換えると「選ばなかった選択肢を、もしも選んでいたら得られたであろうメリット」です。
行動経済学において、人間は「機会費用を軽視しがち」です。米国デューク大学のダン・アリエリー教授らは自動車販売店で来店客に「車を買ったら何を諦めることになりますか」と尋ねる調査をしました。結果、多くの人は車の購入で失う数百万円に関して、「別の使い方」でどんなメリットが得られるのかを考えてはいませんでした。車の選択に目を奪われ、機会費用を軽視したのです。
ダイエット中の食事にも同じ危険が潜んでいるのです。「おなかいっぱい食べる」選択をすれば、おいしさや満腹感を味わえます。しかし「節制する」という別の行動を選んでいれば、健康や体形の維持に近づいていたはずです。それでも人間は、目の前の料理をたいらげ、「もし食べていなければ...」という選択肢は無視します。
レコーディングダイエットは食事の記録を通じて、節制しなかった過去の事実を可視化し、食生活の改善などの意識改革により、ダイエット効果が生まれるのです。確かに期待できそうです。しかし必ずダイエットできると保証できない原因が、知識(食事の記録)だけで満足して、効果的な努力をしようとしない人間の不合理さにあることを、自分の経験から最後にお伝えしておきます。
(2020年6月13日掲載)