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01 色彩感覚

花をテーマに追い続けて いつの間にか40年近くに

作品の前に立つ小山利枝子さん=山布施のアトリエで

 生まれ故郷・長野市篠ノ井山布施の村山という集落に私がアトリエを構えたのは、35年以上前になります。父は農家の長男で、使っていなかった畑にアトリエ兼住居を建てたのです。以来、ここを拠点に作家活動をしてきました。

 私は、よく色彩感覚を驚かれますが、自分に根差している色彩感覚が、長野の自然が育んだものだと気付いたのは、長野に戻って本格的に作家活動をするようになってからです。

 夕焼けをイメージした時に、私の心に浮かぶのは、長野で見る夕焼けの赤やピンクの色。標高の高い長野は紫外線が強く、空気が澄んでいることもあって、空の色はすごく透明で鮮やか。でも、例えば東京の夕焼けは朱赤のような違った色になります。

 一方で、日本の秋の紅葉は赤や黄色や緑が混在していて、あや錦の華やかな美しさです。ヨーロッパの秋は茶色のオータムカラーですごくシックな感じ。ヨーロッパで私の作品集を見て初めて、色が過剰なアジアっぽい感じがしました。

 昔から西洋美術が好きだったので、自分の中にアジア的な美意識があるなんて思ってもいませんでしたが、自分の中に培われている色彩感覚は日本的であり、アジア的なのだということをヨーロッパに滞在して自覚しました。

 日本的、アジア的なものが良いとかヨーロッパ的なものが良いというわけではありません。ただ、表現者はアイデンティティーに根差して表現しなければリアルな表現はできないし、人を説得できるようなものは作れません。私の美意識の根底には、日本的な、日本の中でも小さい時に育った長野市の原風景があるのです。

 私の作品は、半抽象画のような感じで、初めて見た人からは私が想像で描いていると思われがちですが、全部実際の花がモチーフになっています。最初は写実的にデッサンをして、そのデッサンを基に、後は自分のイメージを加え拡大して描いていくというやり方なので、決して自分の想像から生まれただけのものではありません。

 モチーフとしての花と出合ったのは、東京芸大の先輩と結婚後、夫の実家のある伊那市で暮らした20代半ばの時です。よちよちと歩けるようになった1歳の娘と農村の静かな道を散歩していた時、道端に咲いていた百日草にぐっと近寄ってみたら花そのものが持っている造形的な面白さにインスピレーションが湧きました。

 花の形の中に内在している自然のエッセンス—。例えば、山の稜線(りょうせん)、逆巻く波の形、流れていく雲のような、自然の中にある形が花のかたちとシンクロしていきました。花の命はすごく短くて、それこそ一瞬の存在ですが、生まれては消え、また生まれる永遠の命の循環が一つのかたちとして顕現しているのではないか。短い命、だからこそ美しい、そういう生命の美みたいなものが凝縮しています。一つのテーマを追い続けて描いているうちに、そういうことをだんだん自覚し、いつの間にか40年近くたってしまいました。

 若い頃は、「一つのモチーフに延々こだわるようなやり方は時代遅れだ。クリエーターとして次々に新しいものを生み出したい」と思っていました。でも、壮大で普遍的な美を追求したいと考えると、40年を使っても目標に届きません。逆に、人生の短さをすごく感じます。

 今まで数えきれないほど個展を開催したり企画展に出品したりしてきましたが、人間の一生でできることなんて、ほんのひとかけら。生きていることの重みを感じます。現在は、この年齢になったからこそ描ける何かがあるのではないかと、これからがもう一頑張りの時だと思っています。

 聞き書き・松井明子

 
小山利枝子さんの歩み

1955 S30 長野市山布施に小山一夫・明子夫妻の次女として誕生


1973 48 長野県立長野西高校を卒業


1975 50 東京芸術大学美術学部 絵画科油画専攻に進学


1979 54 同大学卒業。結婚


1980 55 東京の画廊で初の個展を開く


1981 56 佐久市に移住


1982 57 伊那市に移住。長女出産


1985 60 夫死去


1986 61 長野市に帰郷


1993 H5 東京で、ギャラリーが企画した初の個展を開く


2000 12 上田女子短期大学幼児教育科美術非常勤講師(2002年まで)


2004 16 「種子の秘密」が文化庁買い上げ優秀美術作品に


2006 18 文化庁の研修制度でオランダ滞在(9月〜11月)。県民文化会館運営協議会委員


2008 20 再婚


2009 21 神奈川県の横須賀美術館で開催された「花 美と生命のイメージ展」に出品。出

      品作品のうち1点が同館収蔵作品に


2010 22 信濃美術館協議会委員(2016年まで)


2016 28 おぶせミュージアム・中島千波館で小山利枝子展開催。4点が同館収蔵作品に


2021 R3 上田市立美術館で開催された「シンビズム展」に出品。出品作品のうち28点が

      収蔵作品に


2022 4 池田20世紀美術館(静岡県)で小山利枝子展 県民文化会館運営協議会会長


2023 5  八十二文化財団理事 就任



2023年6月3日号掲載

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