top of page

TILL ティル

=2時間10分

長野千石劇場(☎︎226・7665)で公開中

(C)2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

息子の悲劇乗り越え 母親の勇気ある行動

 1955年、米国ミシシッピ州で、14歳の黒人少年エメット・ティルが白人女性に「口笛を吹いた」という理由で拉致され、激しいリンチの末、殺害された。映画「TILL ティル」は、公民権運動を大きく前進させたことで知られる「エメット・ティル殺害事件」を基に、愛する息子の死という悲劇を乗り越え、黒人の生活を脅かす人種差別に立ち向かった一人の母親の勇気ある行動の物語だ。

 アフリカ系米国人への激しい差別が公然と行われていた第2次大戦後の米国。メイミー(ダニエル・デッドワイラー)は、夫の戦死後、女手一つで一人息子のエメットを育てていた。55年、エメットが夏休み中、黒人差別が厳しい南部ミシシッピ州の親戚を訪れることにメイミーが不安を覚え反対した。その不安が的中し、エメットは白人たちに激しいリンチの末、殺害されてしまう。怒りと悲しみに打ちひしがれるメイミーだったが、息子のために、想像を超える行動を起こす。

 公立学校における黒人と白人の別学を定めた州法を米国最高裁が違憲と認めたブラウン事件判決は54年。その翌年に、「エメット・ティル殺害事件」が起きたことに、やりきれなさを覚える。

 メイミーの勇気ある行動に心を揺さぶられたのは、脚本も手掛けたシノニエ・チュクウ監督だ。母親の視点で描くことで、より深く心に響くドラマとなぅた。

 息子を愛し、命の尊厳を求めて立ち上がる、正義感の強い母親を演じたダニエル・デッドワイラーの繊細な演技は、世界主要の映画祭で高く評価され、数多くの主演女優賞に輝いた。「天使にラブ・ソングを」で知られるオスカー女優、ウーピー・ゴールドバーグが、エメットの祖母役だけでなく制作にも名を連ねている。

 人はなぜ憎しみ合い、いとも容易に命を奪うのか。人種差別に基づくリンチを、連邦法の憎悪犯罪とする「反リンチ法」が成立したのはエメット殺害事件から実に67年も後の2022年3月。「エメット・ティル反リンチ法」と名付けられた。

 PG12指定。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年01月13日号掲載

bottom of page