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BAD LANDS バッド・ランズ

=2時間28分

長野千石劇場(☎︎226・7665)で9月29日(金)から公開

(C)2023「BAD LANDS」製作委員会

悪の泥沼にはまった 詐欺集団の心の闇

 連日報道される特殊詐欺事件。巧妙かつ大胆なだましの手口、詐欺グループの実態は闇に包まれている。「BAD LANDS バッド・ランズ」は、詐欺の実態とそれに関わる人々の心の闇を描いたクライムサスペンス。直木賞作家・黒川博行の「勁草(けいそう)」を原作に、原田真人監督脚本・プロデュースで映画化した。

 橋岡煉梨(ネリ=安藤サクラ)は大阪を拠点に暗躍する詐欺集団で、さまざまな悪事に加担していた。大がかりな詐欺だけでなく、NPO法人を隠れみのに、貧しい老人たちから年金を巻き上げる貧困ビジネスにも関わっていたが、ネリの人柄は老人たちに慕われ、なかでも元ヤクザの曼荼羅(宇崎竜童)に一目置かれていた。

 観察力と勘の良さで警察の目を欺く用心深いネリとは真逆で、姉思いだが軽薄な弟・穣(ジョー、山田涼介)が賭博で大金を借金し、やくざに追われるはめに。弟を救うため犯罪の元締めである名簿屋の高城(生瀬勝久)を襲い大金を手に入れるが、ヤクザだけでなく、監視を強めていた大阪府警の特殊詐欺捜査班の手が迫っていた。

 親しみやすい笑顔でするりと人の懐に入り込む、ネリはまさに人たらしだ。本来逮捕されるべき犯罪者なのに、逃げてほしいなどとつい肩入れしてしまうのは、ネリの背負ってきた悲惨な過去への同情か、彼女の魅力にはまってしまったからなのか。原作タイトルの「けいそう」とは風雪に耐える強さという意味だそうだ。まさにネリの人生と重なる。

 次々と登場する詐欺のシーンは犯罪現場を目撃するかのようなリアルさだ。高齢者自身はもちろん、老親を持つ者にとって冷や汗が出るようなシーンの連続に、家族の希薄感、身の回りにある落とし穴と危険だらけの現代社会が痛烈に描かれる。

 意外な人物も出演する絶妙なキャスティングと大阪弁の面白さ。なかでも原作では男だった主人公を女性に変えたことで、ネリが抱える怒りや悲しみなど、より複雑で深みのあるヒロインになった。安藤サクラの役者としての存在感、すごさは必見だ。

 悪の泥沼にはまった者たちの壮絶な逃走劇。原田監督ならではの緊迫感と呼吸困難になりそうなスリリングな展開から目が離せない。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年9月23日号掲載

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