=2時間8分
長野千石劇場(☎︎226・7665)で4月21日(金)から公開

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SAで寸借詐欺一家 通報から思わぬ展開
「高速道路家族」は、高速道路のサービスエリア(SA)を転々としながら暮らすホームレス一家が巻き起こす卓越したストーリーで話題となった韓国映画だ。
ギウ(チョン・イル)は妊娠中の妻ジスクと2人の子どもの一家4人。高速道路のサービスエリアの空き地にテントを張り、休憩中のドライバーらに「財布を落としたので少しだけ貸してほしい」と懇願する。頼まれた人々は怪しいと思いながらも子どもたちの哀れな姿についお金を渡す。人の優しさに付け込んだ寸借詐欺で食いつなぐ日々だ。
以前だました中年女性ヨンソン(ラ・ミラン)と別のサービスエリアで遭遇したギウは通報され、警察に連行されてしまう。ヨンソンは残された家族を見捨てられず、3人を引き取り一緒に暮らし始めるのだが、思わぬ運命が待ち構えていた。
最近話題になった「親ガチャ」。子どもが親を選べない状況をスマホゲームの「ガチャ」に例えた言葉だが、9歳の少女ウニにとって、貧しいギウ一家の暮らしはまさに失敗の親ガチャだ。学校にも通えず、父親が教えるのはだましやすい人を見抜く方法だ。無邪気な弟は遊び感覚だが、罪の意識が芽生え始めているウニの、悲しげな瞳に心を痛めずにいられない。
サービスエリアに行き交う人々と対極の貧困生活だが、一家で肩を寄せ合うテント生活の中に時に幸せに見える瞬間があり、家族の絆がにじみ出る。
なぜギウは社会から見捨てられホームレスになったのか。自ら脚本を手掛けたイ・サンムン監督は、ホームレスに関する国の資料に注目し、過去の事件や実際にホームレスになった人々に取材を重ねて、韓国社会に潜む不安や怒りをあぶり出してゆく。
過酷な暮らしを受け入れる妻のジスクや、中古家具店を経営するヨンソンもまた、それぞれに心に悲しみや苦しみを抱えている。ヨンソン役のラ・ミランは演技派として知られ、監督が熱望して当てがきしたそうだ。冷たい現実社会で、人としてあるべき慈悲の心を体現したヨンソンの生きざまに、観客もまた救われる。
日本映画ペンクラブ会員、ライター
2023年4月15日号掲載