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青いカフタンの仕立て屋

=2時間2分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で7月21日(金)から公開

(C)Les Films du Nouveau Monde - Ali n’ Productions - Velvet Films Snowglobe

次第に明かされる 夫婦の愛に胸痛く

 「カフタン」とは、結婚式や宗教行事などフォーマルな席に欠かせないモロッコの伝統的な民族衣装で、母から娘へと次の世代に受け継がれる。「青いカフタンの仕立て屋」は、極上のカフタンを制作する職人とその妻の愛の物語だ。

 モロッコの海沿いの町サレにある小さな工房でハリム(サーレフ・バクリ)と妻のミナ(ルブナ・アザバル)はカフタンの仕立て屋を営んでいる。伝統を守る職人気質のハリムを支えてきたミナは、客の心をつかむ接客上手だ。遅れがちな注文をこなすため若い職人のユーセフを雇うが、仕事熱心なユーセフを指導するハリムの姿に、ミナは次第にいら立ちを覚える。だが病魔に侵され余命宣告を受けたミナに、最期の時が迫っていた。

 印象深いのはカメラが捉える伝統工芸の匠の技。ミシンは使わず一針一針丁寧に縫い上げる指先の繊細な動きから生み出されるカフタンを、スクリーンで堪能する喜び。サテンシルクのあでやかな輝きと柔らかな生地の動き。金の糸で彩られた刺しゅうや飾りボタンの精巧なデザインの数々はため息が出るほど豪華で美しい。

 「モロッコ、彼女たちの朝」(2019年)のマリヤム・トゥザニ監督は、静かな描写で、ハリム、ミナ、ユーセフの3人の感情の緊張と高まりを描き出す。見つめあう瞳、触れ合う指先、そして何度も映される背中が、せりふ以上に感情を物語る。公衆浴場(ハマム)に集う男たちの裸身。ユーセフの張りのある肌。そして次第に衰弱してゆくミナの痩せ衰えた背中が、命の焔(ほむら)が消えかかる残酷な現実を映し出す。

 イスラム社会では禁断の同性愛。夫が心に秘める男性への恋愛感情を察しながら、全身で夫を理解し愛するミナ役のルブナ・アザバルは、過酷な減量で最後まで病気と闘う威厳に満ちた誇り高い女性を演じきった。

 夫婦が過ごす穏やかな時の流れと、香り立つような官能的なシーンの見事さに圧倒される。次第に明かされてゆく夫婦の切ないまでの愛に胸が痛くなる。

 カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞。米アカデミー賞のモロッコ代表に選ばれている。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年7月15日号掲載

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