「鎌倉時代の刀匠の意識のありよう」探り、新たな領域へ 

信更町の刀工 根津啓さん

仕上げ段階に近い刀を、少しずつ削って整える根津さん
独立して7年 文科大臣賞・経産大臣賞受賞を区切りに

 信更町の山あいに「秀平鍛刀道場」はある。刀工の根津啓(けい)さん(38)が道場を構え独立して7年。神棚に向かってほら貝を吹き、祝詞を上げてから仕事を始める毎日。感覚を研ぎ澄まし、鋼と対話するかのように日本刀を鍛え、打ち出している。

 東京生まれの札幌育ち。幼い頃は祖父が営む自動車修理工場で遊び、鉄の刃物や工具に心ひかれていたという。

 日本刀を初めて見たのは高校生の時。鎌倉時代の名匠・正宗が作った国宝の刀に、「人が作ったというより自然から生まれ出たような、人知を超えたもの」を見た。「こんな物を生み出す人に、自分もなりたい」と、刀工を志した。

 大学は工学部材料工学科で金属について学び、卒業と同時に坂城町の宮入小左衛門行平(こざえもんゆきひら=本名・宮入恵)さんに入門。5年の住み込み修業を経て作刀が許され、展覧会に出品するようになった。なかご(柄の中に隠れた部分)に刻む銘は「秀平」。師匠が命名した。

 日本刀は、多くの工程を経て作られる。材料の鋼をつちで打って折り返す鍛錬を何度も繰り返し、硬さを調節して粘りを出す。しなやかな芯になる軟らかな鋼を、刃になる硬い鋼でくるんだ後、棒状に打ち延ばして刀の形をつくっていく。長い刀を一振り作るのに1カ月半ほどかかる。

 どんな刀を作るのか—それは、工程の中で「鋼と対話」して決める。「刀が生まれたがっているように、生み出してあげる。それが自分の使命」と言う。

 昨年度の「新作日本刀 研磨 外装 刀職技術展覧会」で、作刀部門で最優秀の文部科学大臣賞と、研磨・外装の両部門を含む全体での最高賞である経済産業大臣賞を受けた。作品は切っ先が長く、刃先が広い南北朝時代の形。全体の姿と反り、肌模様や光沢の質感、刃文の形といった要素がバランス良く調和した力強い作風が評価された。

 この受賞を区切りに、昨年から新しい段階に入ったという。今取り組んでいるのは、これまで取り組んできた師匠の作風とは異なる、鎌倉時代の姿をした刀。「当時の刀匠の意識のありよう」を探りながら、自身にとって初めての領域に足を踏み入れている。「刀の意志を受け取りながら刀を生み出すサイクルを繰り返し、自分ができることの幅を広げていきたい」

 今年はこの新しい刀を同展覧会に出品する。展覧会の作品展は6月から8月に坂城町鉄の展示館で開かれる予定だ。

記事・写真 竹内大介


写真下=文科大臣賞・経産大臣賞をダブル受賞した「第11回新作日本刀研磨外装刀職技術展覧会」出品作。長さ67.3センチ、反り2.2センチ。刃文は大きな波のような「のたれ」の形で、泡立つような粒子状の「にえ」が出ている


2022年3月26日号フロント