選ばなかったみち

=1時間26分

長野千石劇場(☎︎226・7665)で3月4日(金)から公開

(C)BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020

時間をさまよう父 頭をよぎる人生選択

 病気や障害を抱える家族の面倒を日常的に見る子どもたちを指す「ヤングケアラー」という言葉が知られるようになった。映画「選ばなかったみち」は、若年性認知症を患う父と、ヤングケアラーの娘の心象風景や内面を描き、人生の奥深さを浮き彫りにする。

 レオ(ハビエル・バルデム)は米国で作家として成功したメキシコ移民で、ニューヨークで暮らす。若年性認知症と診断され、離婚した妻との間に生まれた一人娘モリー(エル・ファニング)とヘルパーのケアで生活している。記憶は薄れ意思の疎通が難しいレオは、何かとトラブルを起こしていた。

 モリーと一緒にいながらレオの頭の中をよぎるのは過去の選ばなかった道。初恋の人と愛し合ったメキシコ。作家として悩み、家族を捨てたギリシア。もしあの時、違う選択をしていたらどんな人生を歩んでいたのだろう。三つのパラレルワールドを、観客はレオとたどることになる。

 過去から現在へと時間をさまようレオの心の旅路を巧みに映しだしたのは、「耳に残るは君の歌声」(2000年)などで国際的に高く評価されているサリー・ポッター監督。50歳の若さで認知症を発症した弟を介護した実体験からこの物語は生まれた。なんとかコミュニケーションをとりたいと寄り添い続けたポッター監督は、弟が幻想の世界に生きていることに気づき理解したという。

 レオの周囲にはさまざまな人物が登場する。「仮病だ」とばっさり切り捨てる元妻。介護経験も未熟で、家族愛がいつしか義務感になっていた自分を責める、優しいモリーの表情が切ない。

 レオ役のハビエル・バルデムは「ノーカントリー」(07年)でアカデミー賞助演男優賞を受賞した演技派。異なる地で、異なる三つの人生を生きる難役を演じきった。

 自分は関係ないと言い切れないのが認知症だ。認知症を描いた作品を見るたびにわが身に代えて思う。人として生きることを許してくれる家族の絆に、希望の光が見えてくる。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2022年2月26日号掲載