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誰でも安心して アートと出合える場所に

県立美術館 特別鑑賞日などの独自「プロジェクト」

7月開催の特別鑑賞日に葛飾北斎の作品を楽しむ来場者

 「特別鑑賞日は美術の奥深さに気兼ねなくふれられる機会。障害者が安心して訪ねられる美術館が身近にあってうれしい」。箱清水の県立美術館が障害のある人のため休館日に設けている「特別鑑賞日」を利用して7月、盲導犬と一緒に展示を楽しんだ三輪の池田純さん(70)はこう喜んだ。

 同美術館は、2021年の新装開館を機に「誰でも安心してアートと出合える場所になること」を目指す「インクルーシブ・プロジェクト」をスタートさせた。障害の有無や年齢、性別、国籍などにかかわらず誰もが美術館を訪れてアートを体験できる機会を提供していこうという取り組みだ。



 特別鑑賞日はこのプロジェクトの一環で、バリアフリー設備を知ってもらうことを狙いに企画。3回目となる今回は、長野地域を中心に県内各地から介助者を含めて167人が参加した。特別展、コレクション展、東山魁夷館コレクション展の各会場では、それぞれの担当学芸員が手話通訳を交えたギャラリートークで作品を解説する時間もあり、参加者は思い思いにゆったりとした時間を過ごした。

 同美術館での観覧は、普段から障害者手帳を見せれば本人と介助者1人までは無料。特別鑑賞日は、場所や環境に不安を抱える人が施設に慣れて、通常の開館日にも安心して立ち寄ってもらうための機会として位置付けている。


アートラボで開催中の光島貴之展で、作品にさわって鑑賞を楽しむ家族連れ

 またプロジェクトは、美術館無料スペースに新設の視覚以外の感覚を使った鑑賞に特化した作品を展示するギャラリー「アートラボ」の運営も行う。ここでは抱きかかえるように触れると温度や音を感じられる焼き物、アイマスクで視覚を遮断して触覚だけで作った「触覚彫刻」、全盲の美術家がくぎやびょうなどを用いて制作した触れて楽しむ作品などを年4回の企画展で紹介。障害のある人もない人もそれぞれの感覚でアートを一緒に体験できる場としている。

音声ガイドも活用しながら北斎作品を楽しむ池田さん(右)

 プロジェクトを担当する学芸専門員の青山由貴枝さん(35)は「美術館は社会と関わる拠点。カフェやコンビニのように誰もが身近に安心して立ち寄れる場所になるといい」と活動する。

 本年度2回目の「特別鑑賞日」は、「とびたつとき〜池田満寿夫とデモクラートの作家たち」開催中の10月25日(水)13時から17時。対象者は身体障害者・療育・精神障害者保健福祉手帳を持っている人とその介助者。当日は展覧会ごと手話通訳付き学芸員のギャラリートークのほか、その日に集まった人たちと自由に会話をしながら作品鑑賞を楽しむ「おしゃべり鑑賞会」などのイベントも行う。参加希望者は、10月1日(日)17時までに県立美術館ホームページ内の専用申し込みフォームかファクスで申し込む。

 (問)☎︎050・5542・8600

 記事・写真 中村英美


2023年8月26日号フロント

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