線は、僕を描く

=1時間46分

長野グランドシネマズ(☎︎233・3415)で10月21日(金)から公開。

(C) 砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

水墨画に引かれた 若者の喪失と再生

 「線は、僕を描く」は、水墨画家砥上(とがみ)裕将が著し、2020年本屋大賞3位を受賞した青春芸術小説の映画化。喪失の悩みを抱えた若者が水墨画の魅力に引かれ、制作に挑み、再生していく姿を描く。

 大学生の青山霜介(横浜流星)は、アルバイト先の絵画展の設営現場で、吸い寄せられるように一幅の水墨画の前に立ち尽くしていた。その姿を見た水墨画の巨匠・篠田湖山(三浦友和)に声をかけられ、霜介は内弟子として水墨画を学び始める。美しすぎる若き絵師としてマスコミの注目を集めている篠田の孫娘・千瑛(清原果耶)は、なぜ湖山が急に内弟子を取ったのか、不信感を抱き、密かにライバル心を燃やす。家族を亡くした深い喪失感と暗い過去に心を閉ざしていた霜介だったが、水墨画に魅せられ、次第に人生を見つめなおしてゆく。

 水墨画の道を歩む霜介の成長とともに描かれるのは、水墨画の繊細な美。百人一首の競技かるたに打ち込む高校生の熱い青春を描いた「ちはやふる」シリーズ(2016、18年)で、和歌の雅(みやび)な世界を巧みに映像化した小泉徳宏監督が、水墨画が描かれるさまを軽やかにスクリーンに映し出す。

 心を整え丁寧に墨をする。真っ白な画仙紙に筆が入り、流れるような一本の線は森羅万象を捉え、命が吹き込まれてゆく。墨の濃淡と、白と黒のみで描き上げられた絵なのに、鮮やかな色彩を感じる不思議な感覚。画面からは墨の香りまでも立ち昇るかのようだ。

 技法の一つ一つが丁寧に描かれ、初心者である霜介とともに観客も水墨画を学ぶような高揚感。自然と向き合い、万物の命の本質へと迫る水墨画の奥深さが伝わる。「日本はなんと素晴らしい伝統文化を持つ国なのか」とあらためて思う。

 原作の魅力の一つが、人生の指針となるような数々の名言の存在だ。「できるかできないかではなく、やるかやらないか」「線は生きること。自分の線は自分で見つけることだ」と。

 エンドロールの最後まで、画面いっぱいに繰り広げられる日本の美を堪能する。そのあまりにもみずみず々しい瞬間に、心が震えてしまう。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2022年10月15日号掲載