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終わりの鳥

  • 5月17日
  • 読了時間: 2分

=1時間50分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で5月23日(金)から公開

(C)DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024

余命わずかの少女に 舞い降りた鳥「デス」

 生きるもの、命あるものすべてがいつかは迎える「死」。「終わりの鳥」は、余命わずかの少女の前に舞い降りた「死」の鳥と、その少女と母親との交流を描いた奇想天外なダークファンタジーだ。


 ゾラ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)は、小児がんに侵された15歳の一人娘チューズデー(ローラ・ぺティクルー)の介護に明け暮れていた。そのつらい時間から逃れるように、看護師に世話を依頼すると、外出して息抜きをするのだった。自分の死期が近いことを悟るチューズデーは、気丈に振る舞い笑顔を見せる聡明な少女だ。母親を心配するチューズデーの前に突然、異様な鳥が姿を現す。その鳥の名は「デス」。地球を周回し、死を察知すると舞い降りて命の終わりを告げる死神だった。


 死に恐れおののくほかの人間と違い、死に直面しながらも母親を気遣う少女の優しさに関心を持った死神は、すぐ命を奪わず母親に別れを告げる猶予を与えるのだった。だが帰宅したゾラの思わぬ行動が混乱を巻き起こす。


 これまで描かれてきたダークなイメージの死神ではなく、カラフルなビジュアルのコンゴウインコの登場に意表を突かれる。しかも人間の言葉を話すだけでなく、耳の穴の中に隠れるほど小さくなったり巨大化したり変幻自在。たばこをふかし、アイス・キューブのラップをノリノリで歌うかと思えば、おどろおどろしい声で死への引導を渡す。これまでと全く違う死神から目が離せない。


 哲学的な生死感をテーマにしながらも、デスが見せるどこか滑稽で悲しみと苦悩を併せ持つ複雑なキャラクターが、不思議なほどに魅力的だ。


 ユニークな発想の脚本を手掛けたのはクロアチア出身のダイナ・O・プスィッチ監督。10代の時に友人を病気で失った自身の体験から生まれた物語だという。監督が最初に制作した短編映画が、サンダンス映画祭をはじめ、数々の国際的な賞に輝いた。


 命あるものはいずれ死ぬ。鳥は私たちに突きつける。「誰も死から逃れることはできない」と。死の対極に生きることへの喜びがあることを教えてくれる。

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)


2025年5月17日号掲載

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