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桜色の風が咲く

=1時間53分

長野千石劇場(☎︎226・7665)で公開中

(C)THRONE / KARAVAN Pictures

盲ろう者の東大教授 人生の可能性広げて

 視力と聴力を次々と失いながらも盲ろう者として世界で初めて常勤の大学教授になった日本人がいる。東京大学教授の福島智さんだ。「桜色の風が咲く」は、智さんを育て上げた母・令子さんの著書「さとしわかるか」を基に、幾つもの困難を乗り越えながら、人生の可能性を広げていった子とその母の実話の映画化だ。

 令子(小雪)が3人の息子の末っ子・智の目の異常に気付いた時、すでに病は進行していた。乳幼児の緑内障「牛眼」により3歳で右目、9歳で左目を失明。自分を責める令子を救ったのは、視力を失っていっても、やんちゃで前向きに生きる智の明るい笑顔だった。

 盲学校に進学した智(田中偉登)は、親友と語らい、淡い恋心にときめく。高校生活を謳歌する智に、さらなる試練が待ち構えていた。日ごとに音が聞こえなくなり、ついに18歳で聴力まで失ってしまう。光も音も奪われてゆく恐怖を「暗黒と無音の宇宙にいるような孤独」と吐露する智。沈黙の世界に苦闘する智に希望の明かりをともしたのは、令子が独自に編み出した「指点字」というコミュニケーション手段だった。

 厳しい現実と困難に立ち向かい、どんな時も自身の可能性を諦めない強さと勇気を持ち続けた福島智さんは、2002年に米・タイム誌で「アジアの英雄」に選ばれた。世界で活躍するそのエネルギーとパワーに、驚きと感動が満ちている。

 息子を支えるために 立ち止まることなく共に歩んできた母親のたくましさと献身的な愛が、本物の強さとは何かを教えてくれる。母子の絆をみずみずしく演じた小雪と田中偉登の2人の空気感は、演技であることを忘れてしまうほど自然で、優しさと思いやりに満ちている。

 人は年齢を重ねるとともに視力や聴力の衰えに不自由さを覚える。福島さんの壮絶な人生は、どんな想像力を持ってしても足元にも及ばない。「コミュニケーションができないこと」が、盲ろうになったときの福島さんの一番の苦痛だったという。人が他者とつながる手段であるコミュニケーションがいかに大切なことか。コロナ禍で多くを学んだ今、あらためてコミュニケーションの重みを認識する。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2022年12月17日号掲載

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