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最後まで行く

=1時間58分

長野グランドシネマズ(☎︎233・3415)で公開中

(C)2023映画「最後まで行く」製作委員会

観客を裏切る展開 最後に笑うのは誰

 2014年に公開された韓国の犯罪サスペンス映画「最後まで行く」。韓国で観客動員数5週連続1位を記録し、中国やフランスでもリメークされた大ヒット作の日本版「最後まで行く」が、岡田准一、綾野剛らの顔ぶれで公開中だ。

 年の暮れも押し迫った雨の日の夜、危篤の母親の元へ必死に車を走らせていた刑事の工藤(岡田准一)は、突然目の前に飛び込んできた男をはねてしまう。とっさに死体をトランクに入れ、事故の隠ぺいを図るが、年末の検問に引っ掛かり挙動不審で怪しまれる。

 なんとかその場を逃れたものの、一難去ってまた一難。県警本部から調査に来た内部監察官の矢崎(綾野剛)に目をつけられる。思わぬ事態に追い詰められ、遺体の処理に困った工藤は、とんでもない行動に出る…。

 工藤は刑事でありながら真人間とはいえない。妻・美沙子(広末涼子)とは別居中で、警察署の裏金作りに関わるだけでなく、暴力団の組長(柄本明)との黒い交際もあり、クリーンさとはほど遠い。だが思わず肩入れしたくなるのは、次々と降りかかる災難とあまりの運の悪さに、不器用でジタバタする人間くささに引き付けられるからかもしれない。

 日本版の監督・脚本を手掛けたのは、「新聞記者」(2019年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞し、最新作「Village ヴィレッジ」が公開中の藤井道人監督。オリジナル版に日本らしさとシニカルな笑いを加えた脚本は、藤井監督ならではの巧みさだ。

 隠ぺいするはずが墓穴を掘ってしまう。崖っぷちに立たされた人間たちが複雑に幾重にも絡み合う。悪の本性が生み出す狂気がそら恐ろしく、執拗なまでの追走劇に息をのむ。岡田と綾野の肉体を張ったアクションに目を見張る。

 追う男と追われる男。視点が変わると思いがけない真実が次第に明かされてゆく。「最後まで行く」のタイトルに込められた、観客を裏切る怒濤の展開と面白さは半端ない。

 本当の悪人は誰なのか。最後に笑うのは誰なのか。ハイテンポなストーリー展開から目が離せない。予測不能なノンストップ・サスペンスだ。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年5月20日号掲載

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