あなたは、空腹のまま出掛けたスーパーで食材を買い過ぎてしまったという失敗経験はありませんか。
すぐに食べるわけではないのになぜこんな行動をとるのでしょう。これは行動経済学で言う「投影バイアス」による行動です。バイアスとは「偏った見方」といった意味で、人が将来の自分を予測する時、ずっと今の状態(空腹の状態)が続くと思ってしまうのです。 ただし買い物経験の豊富な主婦はこのようなミスをしません。長年の経験から無意識に投影バイアスを避けているのです。買い物を奥さんに任せきりの旦那さんは、家計のやりくり上手な奥さんに感謝しましょう。そして今度食材を買いにスーパーに行く時は、おなかを満たしてからにしましょう。 ◇ 20世紀半ばに生まれた行動経済学は、人間が心理的バイアスに影響されて不合理な行動をとってしまうことを発見しました。約15年間に3人ものノーベル賞経済学者を輩出し、注目を集めました。行動経済学によると、意に反した無駄遣いにも、省エネし忘れるのにも一定の法則があります。 現代社会は、ネット化、デジタル化が急速に進んだ結果、リアルな人の交流が減り、ストレスにより、私たちは他人に不寛容になっています。一方で、自分や他人の行動心理を深く知れば、心のストレスや誤解によるトラブルは減るでしょう。無知に付け込んだ不公正な取引もなくなります。行動経済学が教える知恵がそれらを可能にしてくれます。この連載でこうした「知恵」を紹介していきます。 「投影バイアス」について、もう一つ大事なことをお伝えします。米国のミネソタ大学による実験で、空腹で買い物をすると、対象が食品でなくとも、あるいはネット通販であっても、投影バイアスが働き、買い過ぎてしまうことが明らかになりました。「買い物しません、食べるまで!」。ぜひご注意を。
【はしもと・ゆきかつ】1964年神奈川県生まれ。東京工業大卒。シンクタンク、大手広告代理店を経て2019年独立。企業向けのマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント業のほか、著述家として活動。著書に「スゴい!行動経済学」など。
2020年5月23日掲載