国境の夜想曲

=1時間44分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で公開中

(C)21 UNO FILM/STEMAL ENTERTAINMENT/LES FILMS D'ICI/ARTE FRANCE CINEMA/Notturno NATION FILMS GмвH/MIZZI STOCK ENTERTAINMENT GвR

紛争地域の国境地帯 人々の悲しみ・苦しみ

 ロシアの軍事侵攻で戦場と化したウクライナから毎日のように悲惨なニュースが伝えられ1カ月以上たった。中東諸国もかつて同じように戦禍に巻き込まれた。2001年の米国同時多発テロ、10年のアラブの春を端緒に、昨年8月に米軍がアフガニスタンからの撤退を完了させたが、多くの人々が犠牲になった。

 「国境の夜想曲」はジャンフランコ・ロージ監督が、レバノン、イラク、シリアなど紛争地域の国境地帯を、3年以上の歳月をかけ撮影したドキュメンタリーだ。

 がれきだらけの部屋で、息子を亡くした母親たちが嘆き悲しむ。精神病棟では患者たちが祖国を語る演劇の練習をしている。家族の食事のために夜明け前から働く少年。「イスラム国(IS)」壊滅と警備のために機関銃を握りしめる兵士たち。

 ニュースでは報道されない戦後のささやかな暮らし。生き延びた人々の日常にカメラは静かに寄り添う。そこには演じている者はいない。真実の断片を幾つも重ねて、彼らが抱える悲しみや苦しみを捉えてゆく。

 心を打ちのめされたのは、子どもたちが描いた絵に記された残酷な戦争の記憶だ。子どもたちの笑顔を奪った戦争の残骸の中で、痛みを抱えながら生きる人々の悲しみを突き付けられる。

 ドキュメンタリー映画の巨匠ロージ監督は語る。「国境とは政治に応じて再規定されるもの。国境は個人を気にかけない権力の象徴であり、憎しみや復讐心を刺激する」と。国境を変えたい支配者の暴挙から国を守るための戦い。監督自らカメラを抱え、この作品の撮影を始めたのは3年も前のことだ。監督が目撃したのは勝者によって荒廃した大地に暮らす人々。そこは国境ではなく生死を隔てる境界線となっている。今まさにウクライナが直面している問題ではないのか。

 繰り返される愚かな戦争がもたらす破壊の爪痕が、収束しても復興への道のりがいかに困難かを予感させる。

 ベネチア国際映画祭で、ヤング・シネマ賞、最優秀イタリア映画賞、ユニセフ賞など3冠を受賞した。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2022年4月9日号掲載