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唄う六人の女

=1時間53分

 長野グランドシネマズ(☎︎233・3415)で10月27日(金)から公開

(C)2023「唄う六人の女」製作委員会

2人の男を翻弄する 魅惑的な6人の女

 「唄う六人の女」は、未知の森の奥深くに迷い込んだ2人の男と、その森に暮らす6人の女たちを巡るミステリアスな物語だ。

 両親の離婚後疎遠だった父親が亡くなり、萱島(竹野内豊)は、父の遺した山を売るために久しぶりに郷里に戻り、変人扱いされていた父親の生前の不可思議な行動の一端を知る。萱島は、不動産開発業者の宇和島(山田孝之)と山に向かったが、途中で事故を起こし、大けがを負う。意識を取り戻した2人の前に現れたのは、無言のまま奇妙な行動を取る、美しくも怪しい女たちだった。理由も分からず監禁された男たちは脱出を試みるが、さらに森の奥深くへととらわれてゆく。

 なぜ女たちは2人を監禁するのか。なぜ彼女たちは言葉を話さないのか。日本の原風景の里山と森を舞台に繰り広げられる逃走劇に、謎の女たちの正体が次第に明かされてゆく。

 2人の男は女たちに対極の接し方をする。次第に人間の本能をむき出しにしてゆく宇和島は、自己的で欲望のままに女たちを蹂躙(じゅうりん)する。父親との少年時代の記憶を探し求める萱島は、優しさと思いやりを失わない。

 この世のものとは思えない魅惑的な6人の女たちを演ずるのは、和服姿がなまめかしい水川あさみをはじめ、それぞれの世界で才能を発揮する女優たち。ダンサーとしてしなやかな踊りで感情表現するのはアオイヤマダと服部樹咲。荒々しく男たちを攻撃する萩原みのり。従順な優しさを表現するのは桃果と武田玲奈。男たちを翻弄(ほんろう)する、せりふを超えた表現力が見どころだ。

 脚本も手掛けた石橋義正監督が、いにしえより日本人が大切にしてきた自然への畏敬の念をテーマに長年構想を温めてきた物語だ。京都市立芸術大学美術科教授という肩書を持つ石橋監督。これまでも舞台パフォーマンスや美術館での映像作品の展示など、アーティスティックな活動がプロフィールに並ぶ。

 映画でありながらまるで一枚の芸術写真を連続で見るような不思議な感覚。幻想的な映像に魅了される。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年10月21日号掲載

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