千夜、一夜

=2時間6分

長野相生座・ロキシー(☎︎232・3016)で公開中。

(C) 2022映画『千夜、一夜』製作委員会

失踪した夫を待つ女 狂おしい愛の物語

 日本では年間およそ8万人が行方不明者として警察に届け出があるという。事故か事件か、それとも自らの意思なのか。ある日突然、大切な人が目の前から姿を消した—。残された者はどう生きればよいのか。「千夜、一夜」は、愛する男をひたすら待ち続ける女の狂おしいほどの愛の物語だ。

 北の離島の水産加工場で働く登美子(田中裕子)の元に、看護師の奈美(尾野真千子)が相談に訪れた。2年前に失踪した夫・洋司(安藤政信)を捜す奈美は、同じように夫を30年も捜し続けている登美子に助けを求めたのだ。夫が消えた理由を知ることで先に進めると語る奈美に、複雑な思いにかられる登美子。そして、葬式に出るため向かった本土で登美子が偶然洋司を見かけたことで、女たちの止まった時間が動き出す。

 監督はドキュメンタリー出身で、40年にわたりさまざまな人々を取材してきた久保田直監督。テレビ番組や映画が高く評価され、国内外で数々の賞を受けている。久保田監督は、特に北朝鮮による拉致の可能性を排除できないとされる「特定失踪者リスト」が公開されたことがきっかけとなり、この作品が生まれたそうだ。

 田中裕子のためにオリジナルの脚本を仕上げたのは、久保田監督と2度目のコンビを組んだ脚本家の青木研次だ。物語の舞台となった佐渡島の暮らしや文化を映し撮りながら、完成まで8年の歳月をかけて撮影が行われた。

 「千夜一夜物語」のように、夜ごと登美子が繰り返し聞くのは夫の声が入ったカセットテープ。幸せだった頃のささやかな思い出に浸りながら、果てしないほどの孤独な時を過ごす。夫を待つ思いを奮い立たせるかのように、自分に思いを寄せる男をかたくなに拒絶する。女のかわいさをよろいで覆い隠しながら、強さともろさを併せ持つ複雑なヒロインを演じきった、田中裕子の存在感に圧倒される。

 女たちの視線の先にあるのは、心を映し出すかのような暗い海。忘れることが幸せなのか、待つことが愛なのか。揺れる女たちの悲しみも怒りものみ込むかのように、佐渡の荒波がうねる。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2022年10月8日号掲載