=2時間14分
長野グランドシネマズ(☎︎233・3415)で公開中

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
裏の顔を持つ鍼医者 標的をいかに葬るか
今年は、「真田太平記」など信州にもゆかりのある時代小説を著した作家池波正太郎の生誕100年。長く読まれ続ける池波作品の3大シリーズの一つ、「仕掛人・藤枝梅安」が2部作で映画化され、第1部が公開中だ。
江戸で腕の良い鍼(はり)医者と評判の藤枝梅安(豊川悦司)には裏の顔があった。生かしておいてはためにならない人物の殺しを請け負う「仕掛人」の顔だ。得意の鍼を使い、病で倒れたかのように殺しとは分からぬ手口で標的を始末する。楊枝(ようじ)作りの職人・彦次郎(片岡愛之助)も腕の立つ仕掛人の相棒で、吹き矢を操り相手を闇に葬る。
仲介人から殺しの依頼をされた料理屋の内儀おみの(天海祐希)は、死んだ前妻の後釜に収まり、茶屋上がりの色気で仕切る辣腕(らつわん)ぶりが評判の女将(おかみ)だ。梅安は内情を探るため料理屋を訪れるが、おみのの顔に過去の悲しい記憶を呼び覚まされる。
標的をいかに闇に葬るか。色と欲にまみれた輩(やから)たちが成敗される仕掛けが見どころだ。人の命を救うも奪うも、鍼一本。痕跡を残さない鮮やかな手並みと、静かな死をもたらす姿はまるで死神のようだ。
ダークヒーローとして描かれた梅安を演じた豊川悦司の冷酷な顔にのぞく優しさ、漂う色気にほれぼれする。「殺(あや)めるだけで何も聞かない」というのが掟(おきて)。とはいえ、善と悪は表裏一体。人間の心に潜む悪があぶり出されたとき、梅安の正義感が本当の悪人を懲らしめる。この痛快さがたまらない。
美食家としても知られる池波正太郎の作品だけに、本格的な江戸料理の再現を見るのも楽しみの一つ。梅安が相方の彦次郎と、差し向かいで食べるシーンのなんともうまそうなこと。温かい湯気の立つ鍋に魚の煮つけ、シンプルな茶漬けまでもおいしさが漂う。
光と闇が生み出す陰影。血しぶきまでもが美しい。本格的大型時代劇の言葉にふさわしく、日本映画の醍醐味(だいごみ)を堪能する。
エンドロールの終わりに、4月7日(金)から公開される第2部の序章が映し出される。次回登場する豪華な顔ぶれが姿を見せる、なんとも心憎い演出だ。
日本映画ペンクラブ会員、ライター
2023年2月11日号掲載