=1時間24分
長野ロキシー(☎︎232・3016)で公開中

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本を通してふれあい 老店主と少年の物語
イタリア映画「丘の上の本屋さん」は、本を通して心をふれあわせてゆく、老店主と少年の心温まる物語だ。
イタリアの風光明媚(めいび)な丘の広場にある小さな古書店。老店主リベロのもとにはさまざまな客がやってくる。カフェで働く陽気な青年、女主人のために本を探す家政婦、初版本のコレクターや教授に神父たち。本をこよなく愛するリベロは、豊富な知識をいかして客の求めにふさわしい本を選び手渡している。
ある日、店先の本を買えずに眺めていたアフリカからの移民の少年エシエンに声をかけ、コミックを無料で貸し出す。むさぼるように本を読む利発な少年に、さまざまな本を貸し与えて人生の機微を教えてゆくのだった。
他国で暮らす少年にとって、リベロとの出会いは奇跡に違いない。祖国も学ぶ権利さえも失った少年が、再び学べることの幸せ、読後の感想を語り合う老人と少年が交わす言葉には、本を読む喜びと知性が輝いている。
棚に並べられた本たちは古本というだけの存在ではない。「持ち主が代わり、新たな視線にふれるたび、本は力を得る」の名言通り、本から得るものの大きさは計り知れない。リベロがエシエンのために選んだ本は児童書に始まり小説や専門書など名作ばかりだ。
感慨深いのが店の発禁本棚。「チャタレイ夫人の恋人」「アラバマ物語」「種の起源」「怒りの葡萄」。性の扱いや人権などをめぐり、かつて不当な扱いをされてきた本が並ぶ。
物語の舞台となったチヴィテッラ・デル・トロントは、イタリア中部にある最も美しい村の一つ。小さな村だが歴史的な建造物が多く、なかでも16世紀にスペイン人が建てた要塞(ようさい)は、ヨーロッパ最大級の広さを誇る。絶景と歴史的な街並みを映像で見られるのも魅力の一つだ。
ネット社会の今、活字とのふれあい方も大きく変化している。本のページをめくる指先の感触。行間に込められた作者の思いに想像を巡らせる。もう一度、本と過ごしてきた至福の時間を味わいたくなる珠玉のような物語だ。
ユニセフ・イタリア共同制作、文部科学省特別選定(青年・成人向き)、文部科学省選定(少年・家庭向き)、長野県推薦映画
日本映画ペンクラブ会員、ライター
2023年3月18日号掲載