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ラーゲリより愛を込めて

=2時間13分

長野グランドシネマズ(☎︎233・3415)で公開中

(C)2022 映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 (C)1989 清水香子

収容所抑留の日本兵 希望の光を失わずに

 ラーゲリとは旧ソビエト連邦における強制収容所のこと。「ラーゲリより愛を込めて」は、第2次世界大戦後、不当にも極寒の地シベリアのラーゲリに抑留された日本兵が凄惨な日々を送りながらも、日本の家族を思い、希望を捨てずに懸命に生きた実話の映画化だ。原作は、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した辺見じゅん著「収容所から来た遺書」。

 1945年の満州(現中国東北部)ハルピン。日本の敗戦を察知した山本幡男(二宮和也)は妻のモジミ(北川景子)に4人の子どもたちを託し帰国させるが、自身は身に覚えのないスパイ容疑でラーゲリに捕らわれてしまう。零下40度の極寒のシベリアでの過酷な重労働の日々。与えられるのはわずかな食料だけ。飢えと伝染病が発症する劣悪な環境に、痩せ細った兵士たちは次々と命を落としてゆく。

 愛する家族の待つ日本に帰国する希望だけを胸に耐える山本は、絶望し倒れそうになる仲間をかばい励まし続ける。「ダモイ(帰国)の日は必ずやってくる」と。捕虜という同じ立場になりながらも、高圧的な態度の上官。日本人同士が醜い争いを起こす中でも、山本の揺るぎない信念は、次第に周囲の心を動かしてゆく。

 ロシア文学を愛しロシア語ができたゆえの理不尽な悲劇。人間の尊厳を踏みにじる地獄のような状況に追い込まれても、希望の光を失わず人間らしく生きようとした山本の高潔な生きざまに、人のあるべき本質を教えられる。

 旧ソ連軍の検閲で手紙や資料を持ち出せない中、思いがけないかたちで、山本が家族に残した珠玉のような言葉の数々を知ることになる。その真摯な言葉に込められた家族への愛の深さ。強い信念を持ち続けることの偉大さに心を打たれる。

 戦争が人間の心に植え付ける悪意と憎悪の種。ロシアの軍事侵攻によって、愛する家族を失い、涙を流すウクライナ国民の悲しみは、かつてのラーゲリにおける悲劇と重なる。平和な時代に暮らす私たちは、戦争によってもたらされた多くの人々の命の犠牲を決して忘れてはならないと切に思う。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2022年12月10日号掲載

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