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ハント HUNT

=2時間5分

 長野ロキシー(☎︎232・3016)で公開中

(C)2022 MEGABOXJOONGANG PLUS M, ARTIST STUDIO& SANAI PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED.

「北」のスパイ捜し出せ 2人の信念と大義

 韓国と北朝鮮の2国家に分断された朝鮮半島では、互いに工作員を相手国に送り込み諜報(ちょうほう)活動が行われてきた。「ハント HUNT」は、史実を背景に2人の男の信念と大義を描いた、濃厚で緻密なスパイアクション映画だ。

 1980年代の韓国。安全企画部(旧韓国中央情報部=KCIA)の海外次長パク(イ・ジョンジェ)と国内次長キム(チョン・ウソン)は、機密が「北」に漏えいしたことから、組織内に潜り込んだ「北」のスパイを捜し出す任務を与えられる。二重スパイは誰なのか。誰もが疑わしい中、捜査の過程で2人は対立し、互いに疑惑の目を向ける。そして米韓首脳会談が行われるワシントンDCで、韓国大統領暗殺計画が発覚。テロ組織との激しい銃撃戦に2人は巻き込まれてしまう。

 米国や日本など舞台を変えながら、暗躍するスパイの存在があぶりだされてゆく。運命の波に操られるように、互いに離れては引き寄せられる2人の男。2人の視点から見える世界は複雑だが、祖国への忠義は揺るがない。

 当時、韓国内では、軍事的な独裁政権退陣と民主化を求める声が盛り上がっていた。市民や学生のデモ隊が軍部隊・機動隊と衝突し多数の死者を出した「光州事件」は、韓国の歴史に暗い影を落とした。

 北からの亡命者による核開発研究の情報、暗号解読、心理戦や拷問、カーチェイスや銃撃戦など、スパイ物のジャンルならではの緊迫感と激しいアクションは見応え十分。徐々に暴かれてゆく真実から目が離せない。

 最初の脚本に引かれたイ・ジョンジェが、主演だけでなく制作にも関わり、さらに4年の歳月をかけて脚本を完成。国家間の紛争や暴力による弾圧など、時代の悪行を止めたいという思いから、初めて監督に挑んだという。ダブル主演のチョン・ウソン(「私の頭の中の消しゴム」=2005年)ほか、多くの主演クラスの俳優がカメオ出演していることも話題の一つだ。

 朝鮮半島の現状からすれば、フィクションでありながらリアル度満点だ。

 カンヌ国際映画祭をはじめ、数々の映画祭で上映され、新人監督賞も受賞している。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年9月30日号掲載

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