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テノール !人生はハーモニー

=1時間41分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で8月4日(金)から公開

(C)2021 FIRSTEP - DARKA MOVIES - STUDIOCANAL - C8 FILMS

美声のラッパー青年 オペラのステージへ

 人生を変える出会いはオペラだった—。「テノール! 人生はハーモニー」は、ラッパーの青年がオペラに挑戦し、人生の新たなステージを駆け上がるヒューマンドラマだ。

 芸術の都パリ。ラップに夢中な青年アントワーヌがバイト先のすし店の出前でやってきたのはオペラ座・ガルニエ宮。オペラをレッスン中の学生に見下されたアントワーヌが、仕返しに即興で行ったオペラの歌まねは周囲をあぜんとさせるほどの美声だった。その才能にほれ込んだオペラ教師のマリー(ミシェル・ラロック)はアントワーヌをスカウトするが、兄弟や地元の仲間たちの手前、彼は秘密でレッスンを受けることに。思いがけない二重生活が始まった。

 アントワーヌの生きてきた世界はオペラとは全く無縁。下町育ちの粗野な移民系の青年という、格差社会の偏見の壁を打ち破ることから、アントワーヌの戦いが始まる。

 アントワーヌを演じるのは、発話器官を使ってビートボックス(ドラムマシン)のように音楽をつくりだすビートボクサーのMB14。人気オーディション番組で準優勝という経歴の持ち主で、韻を踏んだ言葉で相手を罵倒する熱いラップバトルのシーンはもちろん、映画のすべてのオペラの歌唱に挑戦し、まさにアントワーヌの生きざまに重なるように才能を発揮している。

 オペラの神髄にふれるかのように、「蝶々夫人」「椿姫」「リゴレット」「トゥーランドット」など、オペラの名曲の数々が登場する。世界的なオペラ歌手ロベルト・アラーニャが本人役で出演し、歌声を披露しているのも見どころだ。

 音楽が好きなクロード・ジディ・ジュニア監督が、伝統あるオペラと新しいラップを融合させた物語のアイデアを思いついてから10年。フランスの芸術のシンボルとされる、オペラ座ガルニエ宮での撮影は、交渉に何年もかけて実現したという。大広間のグランホワイエの絢爛豪華な装飾。「オペラ座の怪人」の舞台となったステージの輝くシャンデリア、シャガールの天井画など、スクリーンの大画面で見るぜいたくさに心が高揚する。本物が持つ輝きに裏打ちされた奇跡と感動の物語だ。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年7月29日号掲載

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