「発育零点」を基準に 温度差で「春」感じる
「蠢く」—この漢字の読み方、ご存知でしょうか。「うごめく」と読みます。よく見ると、春の下に虫が二つ付いていて、春になり土の中から虫がモゾモゾ出てくる様子を漢字一字でよく表しています。
3月6日には虫が出てくる時期をいう二十四節気の一つ「啓蟄(けいちつ)」となり、いよいよ春が近づいてきています。
なぜ虫たちは春の訪れが分かるのでしょうか。例えばモンシロチョウは、冬から春にかけての温度差で「春」を感じるそうです。
具体的に言うと、「発育零点」と呼ばれる、活動がほとんど止まってしまう温度より気温の高い日が一定日数続くとサナギからチョウになっていきます。
一説によると、モンシロチョウの発育零点は11℃で、日平均気温から発育零点を引いた値の積算が99℃に達すると羽化するといわれています。長野では例年桜が咲く頃からモンシロチョウを見ることが多くなります。
一方、私たち人間も日差しの強まりや雪解けなどさまざまな方法で春を感じています。中でも「花粉の飛散」で春の到来を知るという人も多いかもしれません。
特にこの春は悩ましく、花粉の飛散量が例年の倍以上になるという予想が出ています。
花粉が飛びやすい天気は、(1)よく晴れて暖かな日(2)乾燥している日(3)風の強い日(4)雨の日の翌日—です。
晴れて暖かい日は、スギの雄花が開きやすくなり、花粉の飛ぶ量が増えます。
湿度が高いと花粉が湿気を吸って重くなりますが、乾燥していると花粉が飛びやすく、さらに風が強いと遠くまで運ばれます。
雨の日は花粉の飛散が抑えられるため、翌日は雨で飛ばなかった分も合わせて飛散してしまいます。
長野県では例年大型連休ごろまで花粉が飛散しますので、対策が必要です。
一年で最も寒い時期を迎えています。虫たちもそれぞれの方法で寒さを乗り越えていますが、成虫で越冬するものは、涙ぐましい努力をしています。
例えば、カメムシは成虫の姿で冬を越すというのに、残念なことに寒さにめっぽう弱いそうです。ある程度の寒さまでは枯れ葉や石の下などで耐えますが、耐えられなくなると最も暖かい場所へ移動します。それは民家です。冬が厳しい北海道では、他県に比べてカメムシが家で目撃されることが多いといわれています。
そして、カメムシが洗濯物にまざっていた経験がある方もいるのではないでしょうか。カメムシには「白い物に集まる習性」があるからです。
白色は太陽光を吸収せずに反射するため、洗濯物の近くにいることで、カメムシに熱が集まり、温まることができるというわけです。
カメムシにとっても、もう少しの間、寒さとの闘いが続きますが、来週の土曜日(2月4日)は「立春」で、暦の上では春になります。立春を過ぎたあとの冷え込みは、「余寒」や「寒の戻り」と呼ばれます。
特に「春一番」が吹いた時は、寒の戻りに御用心です。
春一番とは、日本海を通過する低気圧によって、立春(2月4日頃)から春分(3月21日頃)の間に吹く、強い南風のことです。
つまり、「春に入り、暴風がたびたび吹くようになりました」という防災上のお知らせです。
春の到来を感じさせる呼び名ですが、春一番の翌日は必ず気温が下がります。低気圧が日本の東へ抜けることで、西高東低の気圧配置に戻るため、季節が冬に逆戻りするのです。
長野で春一番の観測はしていませんが、北陸や東京などで観測された時は翌日の寒さに気をつけるようにしてください。
気象予報士・防災士
2023年2月25日号掲載
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