=1時間49分
長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)で公開中
(C)2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.
政府軍と戦う米国民 生活する町が戦場に
社会の分断が深刻化する米国。同じ国民同士が武力衝突する内戦にまで発展してしまったら—。「シビル・ウォー アメリカ最後の日」は、分断がさらに深刻化した近未来の米国を舞台にした問題作。強烈なテーマゆえに、全米で公開されるや2週連続1位となるなど注目を集めている。
独裁的な大統領に反旗を翻し、連邦政府から19の州が離脱。テキサス州、カリフォルニア州同盟を中心とした西部勢力は連邦政府軍との激しい戦いに勝利し、ワシントンD.C.近郊まで迫っていた。
大統領への単独インタビューを狙う記者のジョエルとサミーは、ニューヨークからワシントンD.C.へと向かう。同行するのはベテラン戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)。取材中に出合った若手カメラマンのジェシー(ケイリー・スピーニー)も加わり、4人は、命の危機にさらされながら戦場をくぐり抜けてゆく。
陥落寸前のワシントンD.C.を目指す彼らの旅は、ロードムービーとして、至る所で戦いの無残さを見せつける。政府軍と戦うのは市民。彼らが生活する町が戦場になる。同じ米国人同士だが、人種差別という根強い憎しみは、戦場でもあらわになる。
戦場カメラマンがシャッターを押す瞬間に映し出されるものは、戦争が生み出す狂気だ。人が死にゆく残酷さを冷静にカメラに捉えてきたリーが次第に沈みこんでゆくのと反対に、リーに憧れるジェシーは戦場に慣れタフさを身に付けてゆく。
激しい閃光と爆音にまるで戦場に放り込まれたような臨場感に襲われる。平穏な暮らしがいともたやすく失われる恐怖へとつながる。
監督・脚本は「エクス・マキナ」(2014年)など独創的な作品で鬼才と称されるイギリスのアレックス・ガーランド。制作は常に話題作を生み出すことで高く評価されているインデペンデント系企業の「A24」だ。
国民を導く大統領が己の支持者を扇動し、分断をあおる姿を現実に見てきただけに、フィクションだと言いきれない展開に恐怖を禁じえない。11月に行われる大統領選を前に、激しい選挙戦に揺れる米国。大国はどこへ向かうのか。さまざまな思いが頭をよぎる。
日本映画ペンクラブ会員、ライター
2024年10月5日号掲載