=1時間57分
長野ロキシー(☎︎232・3016)で5月12日(金)から公開

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娘との絆復活願う 男の最期の5日間
「ザ・ホエール」は、40代の孤独な男が、疎遠だった娘との絆を取り戻そうと願う最期の5日間を描く舞台劇の映画化だ。
大学のオンライン授業の講師チャーリー(ブレンダン・フレイザー)は、恋人を亡くした喪失感から過食に走り、体重272キロの超肥満体になってしまった。心不全で余命宣告を受けたチャーリーは入院を拒み、これまで避けてきた自身の問題に向き合う決心をする。彼の人生最後の願いは、8歳で別れたきりの娘との絆を取り戻すこと。残されたわずかな時間は、刻々と過ぎてゆく。
人との関わりを避け孤独に暮らす中年男性の最期の5日間。部屋を訪ねてきた登場人物たちとの会話からチャーリーの人生が次第に明かされてゆく巧みな室内劇の展開だ。チャーリーを支え介護を手助けするのは亡き恋人の妹リズ。偶然、布教に訪れた宣教師のトーマス。そして元妻メアリーと17歳になった娘エリー。心のすさんだエリーは、自分たちを捨てた身勝手な父親を憎み、容赦なく怒りをぶつける。
極度の肥満体のチャーリーの生活は、ほとんどソファの上。歩行器がなければ移動もできず、空間を占拠する巨体はまるで水槽に入れられた鯨のようだ。
予備知識がなければチャーリーを演じているのが、大ヒットシリーズ「ハムナプトラ」などアクション大作の主役として脚光を浴びていたブレンダン・フレイザーだとすぐには気づかないだろう。
病気や私生活のトラブルで引きこもり、キャリアが混迷したフレイザーの人生は、まるでチャーリーと重なるかのようだ。昔のままのちゃめっ気と優しさにあふれる青い瞳に、深い悲しみをにじませる。アカデミー賞で主演男優賞を受賞し、見事に復活を成し遂げた。
監督は、「ブラック・スワン」(2010年)の鬼才ダーレン・アロノフスキー。特殊メイクとファットスーツで4時間かけて別人に変身させたチームは、メイクアップ&へアスタイリング賞も受賞している。
贖罪と希望、生きる意味を問いかけるヒューマン・ドラマだ。
日本映画ペンクラブ会員、ライター
2023年4月29日号掲載