=2時間19分
長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)で1月17日(金)から公開
(C)楡周平/講談社 (C)2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
都会からお試し移住 地元住民との珍交流
「サンセット・サンライズ」は、格安物件にほれ込んで都会から移住してきたサラリーマンが地元住民と繰り広げるおかしな交流を、コロナ禍や過疎化、震災などの問題を盛り込みながら描いた、楡周平原作のヒューマンコメディーだ。
宮城県南三陸の町役場で空き家活用プロジェクトを担当することになった百香(井上真央)は、まず自分の持ち家を貸し出すことに。4LDKの一軒家で家具・家電完備、家賃は月6万円。この好物件に反応したのが、東京の大手企業に勤務するサラリーマンの西尾晋作(菅田将暉)だった。コロナ禍でリモートワークになったのを幸いに、会社には内緒で「お試し移住」に申し込んだのだ。
コロナ対策で越境禁止のはずの県外者を受け入れてしまった百香は、晋作に自主隔離の間、外出禁止を約束させるが、元来の釣り好きの晋作は目の前に広がる海に早速、釣りざんまいの日々をスタートさせる。サングラス、マスク姿の怪しげな男の登場に住民たちは疑いと好奇の目を向ける。
未知のウイルスとされた新型コロナに、人々は感染の恐怖におののき、翻弄された日々。ニュースで伝えられる感染者数に一喜一憂し、マスクで顔は見えず言葉も交わさない日常が今ではうそのようにも感じる。そんな閉塞感に覆われた日々だからこそ、気づかされたのが人と人とのつながりの大切さだった。
脚本の宮藤官九郎は宮城県出身、監督の岸善幸は山形県出身と、共に東北出身の2人のコラボだけに、つぼを押さえた「田舎あるある」にこみ上げる笑いが止まらない。方言に勘違い、地域ならではのうわさ話のネットワークの素早さとカルチャーギャップの面白さ。もてなしハラスメントなる珍語にも納得してしまう。
深まってゆく人間関係とともに、目を引くのが郷土料理の数々だ。芋煮汁はもちろん、どんこ汁、アジのなめろう、メカジキのハモニカ焼きなど、土地の名物や晋作が釣り上げた旬の魚たちが、新鮮な一品として目の前に並ぶ。釣りが趣味の人にはたまらないシーンだろう。
だが、物語の背景にあるのは東日本大震災と復興に追い打ちをかけるようなコロナ禍に過疎化だ。そんな社会問題を乗り越える、東北人の粘り強さと人生の悲哀を織り交ぜた、郷土愛に満ちた移住エンターテインメントだ。
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
2025年1月11日号掲載