ガール・ウィズ・ニードル
- 6月21日
- 読了時間: 2分
=2時間3分
長野ロキシー(☎︎232・3016)で6月27日(金)から公開

(C)NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024
衝撃的な事件の裏の 人間の闇と光を描く
夫を戦争にとられ、貧困にあえぐ女性が妊娠をきっかけに入り込んでしまった残酷な真実—。「ガール・ウィズ・ニードル」は、デンマークで起きたショッキングな殺人事件の背景にある人間の闇と光を描いた話題作だ。
1919年、第1次世界大戦後のコペンハーゲン。縫製工場のお針子として働くカロリーネ(ヴィクトーリア・カーメン・ソネ)は、夫が戦地で行方不明となり、家賃が払えず生活に困窮していた。カロリーネの若さに目をつけた工場の経営者ヤアアン男爵と恋仲になり妊娠するが、訪れた男爵の実家で母親から軽んじられ、身分違いの恋は終わりを迎える。仕事も失い路頭に迷ったカロリーネが出会ったのはもぐりで養子縁組をあっせんする、菓子屋の女主人ダウマ(トリーネ・デュアホルム)だった。機転を利かしダウマの店で働くようになったカロリーネは、次第にダウマが隠す裏の顔と、恐ろしい真実に飲み込まれてゆく。
脚本も手掛けたのは北欧の鬼才と称されるマグヌス・フォン・ホーン監督。デンマーク国立公文書館に残された連続殺人事件にまつわる裁判の記録や写真から、混迷を極めたデンマークの戦後の社会を描きだした。モノクロで撮影された光と闇のコントラストが、不気味さとともに深淵な暗い世相を映し出す。
当時のデンマークには、戦争で夫を亡くしシングルマザーとなった多くの女性たちがいたという。生まれれば母子ともに死が待つだけの人生にどう立ち向かうのか。初めは世間に見捨てられ、孤立していたカロリーネが、生き残るためにしたたかさを身に付けてゆく。まさに時代に翻弄された女性たちの象徴的な存在だ。
デンマークで実際に起きた衝撃的な殺人事件の背景にあるのは身分格差、そしてなによりも女性の人権そのものが認められていない。まさに「時代」が起こした犯罪だということだ。
各国の映画祭で高い評価を受けた本作は、ポーランド映画祭で最多11冠を受賞し、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされている。
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
2025年6月21日号掲載