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オレンジ・ランプ

=1時間40分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で6月30日(金)から公開

(C)2022「オレンジ・ランプ」製作委員会

認知症と向き合う 夫婦の前向きな姿

 もしも自分が、家族が、認知症を発症したら…。そうした思いを抱いた人は多いだろう。「オレンジ・ランプ」は、39歳で認知症と診断されながらも、会社勤めを続け、自らの経験を語る講演活動をしている丹野智文さんの実話を基にした映画だ。

 自動車販売のトップセールスマンとして働く只野晃一(和田正人)の異変は、ある日突然起きた。顧客との約束を忘れたり、顔も名前も思い出せなくなったのだ。病院で晃一と妻の真央(貫地谷しほり)に告げられた検査結果は若年性アルツハイマー型認知症。驚きとまどう2人。晃一は記憶だけでなく、仕事も娘2人との家族4人の人生すべてを失うのではという恐怖に打ちのめされる。夫婦二人三脚で認知症と向き合う日々が始まった。

 主人公のモデルとなった丹野智文さんと家族の生きざまは、認知症で悩み苦しむ人々にとって、力強い応援歌になるに違いない。そして私たち自身も、認知症の患者や家族に対する思い込みや偏見を持っていることに気づかされる。介護の世界を題材にした「ケアニンシリーズ」を手掛けた山国秀幸プロデューサーも、丹野さんと出会い、認知症への意識を大きく変えられた一人だ。シンポジウムで講演する丹野さんの明るい笑顔と誠実な人柄に、映画化を決意したという。

 「認知症と共に生きること」を実現するために何が必要なのか。映画の中で積極的に社会に参加する、さまざまな患者やエピソードが登場する。「認知症本人ミーティング」で認知症の先輩たちが本音で語り合うシーンに、隠すのではなくオープンにすることで、互いに支えあい信じ合える社会が見えてくる。

 自分は絶対にならないと言い切れないのが認知症だ。前向きに生きる患者たちの姿に、「人生を諦めなくていい」というメッセージがあり、その立場になったときの悲壮感や怖さから少し救われる思いがした。発症から9年たった後も、変わらない夫婦の笑顔に、幸せになるヒントがある。

 タイトルのオレンジは、日本では認知症のシンボルカラーとして使われているそうだ。オレンジ色のランプの温かい光は、まさに未来と希望の道しるべだ。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年6月24日号掲載

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