=1時間52分
長野ロキシー(☎︎232・3016)で公開中

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映画愛から生まれた 監督の半自伝的作品
インドの貧しい家庭の少年が映画と出合い、後に有名な映画監督となった—。「エンドロールのつづき」は、米アカデミー会員に選ばれ、世界中の映画祭で高い評価を受けているパン・ナリン監督の半自伝的な映画だ。
インドの田舎町で暮らす9歳のサマイ少年は、駅前で細々と店を営む父親を手伝い、列車の乗客にチャイ(スパイス入りのミルクティー)を売っている。家族で出かけた町の映画館で、生まれて初めて見た映画のまばゆい世界に魅せられたサマイは、学校を抜け出しては劇場に潜り込むのだった。チケットを買えず、何度つまみ出されても懲りないサマイに同情したのは映写技師のファザルだった。映写室から無料で映画を見られることになったサマイは、ファザルからフィルムの編集や映写機の仕組みを学び、ますます映画に夢中になってゆく。
物語に登場する幾つものエピソードはナリン監督の実体験だそうだ。劇場に忍び込んだり悪ガキ仲間との度が過ぎた行動で少年院に入れられたり。なかでも驚くのは「映画を見るだけでなく作りたい」という夢を持つようになったサマイが、映写機を自ら手作りしただけでなく、つなぎ合わせたフィルムで映画の上映会を開いたという、そのいちずな行動力だ。サマイをとりこにした色鮮やかな美しい光たち。その光を捉えたいと真剣に向き合う姿は、周りの人々を動かしてゆく。
色彩でもう一つ印象的なシーンが、料理上手なサマイの母親が作るインドの家庭料理の数々だ。ファザルがうらやむほどスパイスの効いた弁当のおいしそうなこと。映写室に入る交換条件が、弁当と引き換えというのもうなずける。
貧困も階級制度も乗り越えて、人生を切り開こうとするサマイの真剣なまなざしが、ナリン監督の人生へと重なる。さらにナリン監督が敬愛する監督たちとその作品が、オマージュとして映し出されるのも見どころだ。
物語の背景に描かれるのは、フィルムからデジタルへと大きく変化した時代。フィルムの魅力を伝えたいと願う監督の、映画愛から生まれた物語は、世界各国の映画祭で観客賞を受賞し、米国アカデミー賞で国際長編映画賞のインド代表に選ばれている。
日本映画ペンクラブ会員、ライター
2023年2月25日号掲載