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ウィ、シェフ!

=1時間37分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で7月21日(金)から公開

(C)Odyssee Pictures - Apollo Films Distribution - France 3 Cinema - Pictanovo - Elemiah- Charlie Films 2022

孤独な女性シェフ 移民少年らとの奮闘

 活気ある厨房に響くフランス語「ウィ シェフ!」(了解、料理長!)—。映画「ウィ、シェフ!」は、実話を基に、人付き合いが苦手で孤独な女性シェフと、フランスにやってきた移民の少年たちとの心の交流を描いた人間ドラマだ。

 独学で料理の道を究め一流レストランで働くカティ(オドレイ・ラミー)は、いつか自分の店を持つのが夢。テレビの人気料理番組に出演し、味より見た目優先のスターシェフと大げんかして飛び出してしまう。ようやく決まった新しい職場は、移民の少年たちが暮らす自立支援施設だった。厨房の器具も食材もなく、「質より量」が大事な現実に落胆する。手が足りないと嘆くカティに、施設長のロレンソ(フランソワ・クリュゼ)は少年たちをアシスタントにと提案する。言葉が通じない少年たちに悪戦苦闘しながら料理を指導するカティに、少年たちも次第に心を開いてゆく。

 多くの移民を受け入れている移民大国フランスだが、同伴のいない未成年は18歳までに入学か就職できないと強制送還されてしまうという厳しい現実がある。これまで自分中心だったカティが、タイムリミットが迫る少年たちを一流の料理人に育てるため奮闘することで、彼女自身の人生も大きく変化してゆく。実在のシェフ、カトリーヌ・グロージャンが始めた取り組みが物語のモデルとなった。

 カティを演じたラミーはミシュラン一つ星レストランで数カ月間特訓し、シェフの動きを身に付けたそうだ。

 本物にこだわるルイ=ジュリアン・プティ監督は、実際の移民の少年300人から40人をオーディションで選んだそうだ。少年たちの不安や怒り、ふるさとへの思いなど、さまざまな感情に揺れるピュアな表情は演技初体験とは思えないほどだ。

 フランスならではの題材から生まれた真実の物語に心が温かくなる。料理は少年たちにとって母国と家族の記憶をつなぐもの。未来への希望で心が一つになった時、彼らは声をそろえて答える。「ウィシェフ!」。なんと心地よい響きだろう。スクリーンに映し出される数々の料理を目で楽しみ、人生の出会いの素晴らしさを味わう社会派コメディーだ。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年7月8日号掲載

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