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アリスとテレスのまぼろし工場

=1時間51分

長野グランドシネマズ(☎︎233・3415)で公開中

(C)新見伏製鐵保存会

「変化は禁止」の世界を 変えようと挑む少年

 アニメ映画「アリスとテレスのまぼろし工場」は、14歳の主人公の少年たちが変化を禁じられた世界を変えようと挑むファンタジー映画だ。

 その日は突然始まった。製鉄所の爆発事故で町全ての出口がふさがれ、外部と一切遮断されてしまっただけでなく、時までも止まり、住民たちは永遠の冬に閉じ込められてしまったのだ。 

 自分たちが住む世界が消滅するという恐怖に支配された町。いつか元の世界に戻った時のために、変化は禁止というルールまで作られる。中学3年生の菊入政宗は、人を好きになることも、将来の夢も諦め、すべての感情を押し殺していた。クラスメイトの睦実から、秘密にされていた謎の少女の存在を明かされ、その時から止まった世界が動き出す。

 大人になれない、そして子どもではない14歳の少年・少女たち。変化することは許されない単調な日々。奪われた未来をどう取り戻すのか。もがきながら人を愛することで成長してゆく、彼らのみずみずしさがまぶしい。

 新型コロナウイルスの感染拡大が巻き起こした閉塞感に振り回された現代社会に通じるものがある。人は変われるというメッセージに心が奮い立つ。

 ファンタジー映画ならではの映像の素晴らしさ。現実と幻の二つの世界を一瞬でつなぐ天空のひび割れ。しかも人間の心の揺れを感知すると現れる、神機狼(しんきろう)と呼ばれる不気味な煙に飲み込まれるシーンは恐ろしい。

 「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」(2013年)、「さよならの朝に約束の花をかざろう」(18年)で高い評価を受けた映像作家岡田麿里が、脚本と監督も手掛けている。古代ギリシャの哲学者アリストテレスをもじった作品タイトルには作者の哲学的な思いも込められているそうだ。

 制作は「この世界の片隅に」(16年)のMAPPA。きめ細やかな映像美に引き込まれる。

 中島みゆきがアニメ映画主題歌で初めて書き下ろしたという「心音(しんおん)」も話題の一つ。エンドロールに流れる歌詞に込められた壮大な世界観と、言霊の響きに胸を打たれる。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年9月16日号掲載

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