アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台

=1時間45分

長野ロキシー(☎︎232・3016)で公開中

(C)2020 AGAT Films & Cie Les Productions du Ch'tmi / ReallyLikeFilms - Photo (C)Carole Bethuel

囚人が演劇に挑戦 人生を変える「称賛」

 刑務所の矯正プログラムで、演劇にチャレンジした囚人たちが巻き起こす大騒動。「アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台」は、スウェーデンの俳優が体験した実話を基に、フランスで映画化された人間ドラマだ。

 売れない舞台俳優のエチエンヌ(カド・メラッド)は、囚人たちの演劇ワークショップの講師として刑務所を訪れる。初めは演技することをばかにしていた受刑者たちだったが、エチエンヌの情熱に次第に心を動かされてゆく。

 演劇のずぶの素人である囚人たちの舞台なのに観客を魅了する何かがあった。意外にも彼らの舞台は評判となり、刑務所だけでなく塀の外での公演を依頼されるまでになっていく。

 劇中劇として登場するのはノーベル文学賞作家サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」。決してやって来ないゴドーという謎の人物を待ち続ける2人の浮浪者のとりとめのない会話。現代人の存在意義や孤独、不条理をテーマに、物語の解釈は観客に委ねる難解な舞台劇だ。ベケットの代表作を、スクリーンで観劇できるのもこの映画の見どころの一つだ。

 出所の日までの長い年月が早く過ぎてほしいと待ち遠しい思いで日々を送る受刑者たち。待つつらさを知る身だからこそ、ベケットの戯曲に己の人生を重ねることができる。演技に目覚め成長していく囚人役という難しいキャラクターを演ずるのは、多彩なキャリアを持つ個性的な俳優たちだ。

 アプローズとは拍手喝采、称賛のこと。人生を投げ出したような囚人たちや、成功から見放されたエチエンヌは、「アプローズ」の力で生き方を変えてゆく。「人間性を信じ人生への希望を描きたい」。脚本も手掛けたエマニュエル・クールコル監督は、自身の舞台俳優としての長いキャリアを生かして役者心理を深く捉えた素晴らしい人物描写をしている。

 リアリティーを求め、撮影は実在するモーショコナン刑務所で行われた。刑務所が演劇のアトリエを持つことを、フランスでは政府が認めているそうだ。

 ヨーロッパ映画賞で最優秀コメディ作品賞を受賞している。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2022年9月10日号掲載