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アウシュヴィッツの生還者

=2時間9分

長野千石劇場(☎︎226・7665)で9月15日(金)から公開

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生き延びるための 衝撃のボクシング

 ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺が行われたポーランドのアウシュビッツ強制収容所。「アウシュヴィッツの生還者」は、これまで知られることのなかった、衝撃の実話の映画化だ。

 第2次世界大戦の終結から間もなく、ポーランドから米国に渡ったハリー・ハフト(ベン・フォスター)は、ニューヨークでプロボクサーとして活躍していた。うたい文句は「アウシュビッツの生還者」。新聞記者の取材を受けたハリーは、ナチスに連れ去られ生き別れとなった恋人レアを探し、再会したい一心で、秘密にしていた収容所時代の過去を告白する。それは想像を絶する悲惨なものだった。

 アウシュビッツでは、ナチス将校たちが主催する賭けボクシングが行われていた。攻撃的なハリーの特徴を見抜いたナチス親衛隊のシュナイダー中尉は、自分の駒としてハリーを選ぶ。だが、それは相手が死ぬまでたたきのめす残虐なリングだった。

 生き延びるためには同胞のユダヤ人の命を奪わなければならなかった。その悲しみと、残酷な記憶にとらわれ悪夢に襲われる日々。罪悪感に苦しむ父親の姿を間近で見続けた息子のアランが父親の半生をつづった著書を出版したことで、命をもてあそぶナチスの非道な戦争犯罪が明らかとなった。

 監督は、「レインマン」(1988年)で作品賞・監督賞を受賞した名匠バリー・レヴィンソン。過去をモノクロ、現在をカラーという手法で、二つの時空を行き来しながら生存者が払う代償を描き出す。音楽はハリウッドを代表する映画音楽家のハンス・ジマー。2人の名匠が、見事な作品を生み出した。

 何よりすさまじいのはハリー役のベン・フォスターの肉体改造だ。ボクシングのトレーニングだけでなく、28キロも減量し収容所時代の骨と皮だけになった痩せた肉体の、演技を超えた鬼気迫る姿に圧倒される。

 今も再び、愚かな戦争に世界の人々が巻き込まれている。戦争が生み出す狂気をいかに食い止めるのか、犠牲となった人々の声を忘れてはならない。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2023年9月9日号掲載

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